グリーンウォッシュの定義
グリーンウォッシュとは、英語で「ごまかす」「欠点を隠して良く見せる」という意味の「ホワイトウォッシュ(日本語で言えば「白塗りする」というニュアンス)」と、「グリーン」(環境)を組み合わせた造語で、実際には環境に配慮していないのに、「エコ」や「環境にやさしい」と見せかけてPRする行為のことです。
例えば、根拠があいまいなまま「サステナブル」「生分解性」「カーボンニュートラル」「ゼロカーボン」といった言葉を使い、実態以上に環境によい印象を与えることがグリーンウォッシュにあたります。

なぜグリーンウォッシュが起こるのか?
カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現は、今や世界的な目標です。気候変動対策として2015年に採択されたパリ協定以後、多くの国がカーボンニュートラル目標を設定し、日本も2020年10月、菅義偉前首相が「2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする」と宣言しました。
そのため、企業も「環境にやさしい」「カーボンニュートラル」をアピールすることが、ビジネス上の大きなメリットになっています。近年では、消費者の意識の高まりや投資家や取引先からの要請によって、環境配慮を示す必要性が増しているのです。しかし、実際の取り組みが追いつかず、「見せかけ」だけが先行してしまうケースが増えています。
どんな行為がグリーンウォッシュ?
グリーンウォッシュには、いくつかのパターンがあります。
・根拠のない「エコ」主張
例:「CO2削減」と大きく書いてあるのに、どれだけ減ったかのデータがない。
・イメージだけの環境配慮
例:パッケージが緑色や葉っぱのデザインで「エコっぽい」けれど、実際は環境負荷が高い。
・カーボンニュートラルをうたうが、実態が伴わない
例:「カーボンニュートラル製品」と宣伝しているが、製造過程で多くの温室効果ガスを排出している。
ただし、グリーンウォッシュは、必ずしも「だますつもり」で行われるとは限りません。知識不足や確認不足、情報開示の不足、他社の真似など、こうした「うっかり」や「無意識」、「悪気はない」こともグリーンウォッシュの一因に成り得ます。
グリーンウォッシュの事例
・イギリスの大手銀行HSBCは、「カーボンニュートラル社会の実現に投資」と広告しましたが、同時に化石燃料産業など排出集約型の産業や企業への融資活動を継続していることに関する情報が省略されていたことから、広告規制機関から「消費者を誤解させる」と指摘され、広告を取り下げました。
出所:HSBC faces greenwashing accusations from UK advertising watchdog (Financial Times)
・マクドナルドは2019年にプラスチックごみ削減のために紙ストローへ切り替えたものの、実際にはリサイクルができない紙ストローを使用していたことが発覚し、「見せかけだけのエコ」と批判されました。
・ファッション大手であるH&Mは、環境配慮の根拠として使用していたデータに誤りがあったこと、また、“コンシャス・チョイス(Conscious Choice)”として展開されてきた商品が環境にやさしいものであると消費者が誤解する形で販売されていた、として控訴を提起されました。

グリーンウォッシュを見抜くポイント〜消費者が気をつけたいサイン〜
グリーンウォッシュを見抜くには、どんな点に注意すればよいのでしょうか?
- 根拠が示されているか
「カーボンニュートラル」「CO2削減」と書いてあっても、具体的な数字や証拠がなければ要注意。 - あいまいな表現に注意
「環境にやさしい」「サステナブル」など、意味が広すぎる言葉は、実態が伴っていないことも。 - 環境への貢献度
「森づくり」や「海の保全」に貢献するといった商品等について、実際にどのくらいの資金等が当該環境に投じられているか明記していないことも。 - 第三者認証やラベルをチェック
信頼できる認証マークがあるか、またその内容が本当に意味のあるものか確認しましょう。
企業が注意すべき表現
企業側も、グリーンウォッシュを避けるために注意が必要です。
- 情報開示の透明性
カーボンニュートラルを謳う場合、どの範囲で、どんな方法で達成しているかを明確に示す。 - サプライチェーン全体の開示
原料調達から製造・流通まで、どこでどれだけCO2削減に取り組んでいるかを示す。 - 科学的根拠の提示
データや第三者の評価をもとにした主張を心がける。特にニュートラル達成や100%、0%などの表現は、自社の解釈ではなく準拠する国際的な基準やガイドラインなどを示すことでリスクを回避できます。
世界と日本の規制動向
EU
EUでは、2023年に環境主張をする際に第三者による検証を義務付ける「グリーンクレーム指令」、2024年に実質を伴わない環境訴求を禁止する「グリーンウォッシング禁止法」を採択するなど、グリーンウォッシュを防ぐために近年法規制を大幅に強化しています。
具体的には、独立した第三者機関による定期的な検証を受けた、明確かつ客観的で検証可能なコミットメントがない場合、誤解を招くマーケティング方法として以下を禁止しています。
- 実証できない一般的な環境訴求。具体的には、「環境に優しい」「エコロジカル」「グリーン」「自然に優しい」「エネルギー効率の良い」「生分解性」「バイオベース」などの表示を用いたマーケティング。
- 製品や企業活動の一部にのみ該当する環境訴求をもって、製品や企業活動全体に関する環境訴求を行うこと。
- カーボン・オフセットのみに基づき、環境への悪影響が軽減されたなどと訴求すること。
- 承認済みの認証スキームあるいは公的機関以外が提供する持続可能性に関するラベルを表示すること。
イギリス
イギリスは、企業が環境配慮を謳う際の広告やラベル、パッケージ等に対し、誤解を招く表現や根拠のない主張を禁止する「グリーン・クレーム・コード」を策定しています。
日本
日本では、広告・表示が、実際より著しく優良であると消費者に誤認させる「景品表示法」や企業が環境主張を行う際の適切な表示方法を示したガイドラインである「環境表示ガイドライン」がありますが、欧米に比べて規制や監視はまだ弱い状況にあり、今後、国際基準に合わせたルール作りが期待されています。
まとめ ― これからのカーボンニュートラル社会へ
グリーンウォッシュは、「カーボンニュートラル」や「エコ」「サステナブル」といった言葉が広がる今だからこそ、より注意が必要な問題です。
カーボンニュートラル社会を本当に実現するには、私たち一人ひとりが「本物のエコ」を見抜く力を持つ必要があります。
そして企業も、せっかくの環境配慮への取り組みについてウォッシュを疑われないよう、客観性や定量的な事実などに配慮した分かりやすい情報発信を続けることが大切です。
「未来のために、だれもが正しい選択ができる社会」を目指して、まずは身近な「カーボンニュートラル」や「エコ」の言葉から、少し立ち止まって考えてみませんか?