GXの現在と未来を俯瞰する

電巧社が挑む再エネ革命ー「貼る太陽光」が拓く、再エネの新たな選択肢②

電巧社が挑む再エネ革命ー「貼る太陽光」が拓く、再エネの新たな選択肢②

【インタビュー対象者紹介】

(写真中央右側)

石原 敦夫 株式会社電巧社 社長補佐(環境ビジネス)

(写真右端)

大川 雄一郎 株式会社電巧社 営業本部 エネマネソリューション部 部長

建物の屋根に穴を開けずに導入できる「貼る太陽光パネル」。その実用化を進めているのが、老舗電機商社である電巧社です。前編では、同社が手がける軽量・柔軟な「フレキシブルソーラーG+」や施工体制について伺いました。後編では、実際の導入事例、施工現場での工夫、さらにはペロブスカイト型や車両搭載といった将来展望まで、GXの最前線を深掘りします。

目次

導入企業の「できなかった」が「できた」へ

──実際に「貼る太陽光」を導入された企業では、どのような反応がありましたか。

「『これならうちの屋根でもいける』と言っていただけることが多いですね。特に、重量制限や構造上の制約で諦めていた企業にとっては、再エネ導入のハードルが一気に下がったと感じていただけているようです。たとえば、ある食品工場では、建屋の老朽化により構造的に通常の太陽光設置が難しかったのですが、当社の製品によって設置が実現しました。『ずっと気になっていたけどできなかったことが、ようやく実現できた』と喜んでいただけました。」

「本当に小さな案件は別として、大企業、中堅企業では、過去に太陽光を検討したものの『重くて無理』と諦めていたケースが多いです。そういった企業に対して、『これならつけられるかもしれない』という選択肢を提供できているのは、我々の方針が間違っていなかったという実感へと繋がっています。」

──導入後の効果についてはどうでしょうか。

「やはり、自家消費モデルで導入される企業が多く、日中の電力をまかなうことで電気代削減に大きくつながっています。特に電力使用量の多い製造業や倉庫業では、数年で投資回収できるケースも多く、企業のGX推進に直結していると実感しています。また、『脱炭素経営を社外に示せる』という点で、対外的なブランディング価値も高く評価されています。サステナビリティを掲げる企業にとっては、再エネの導入が取引先からの信頼向上や採用ブランディングにもつながっているようです。」

「日本では停電はあまり経験されないと思いますが、最近では送配電設備の老朽化もあり、暴風で停電したり、変電所の火災で広域停電が起きたりすることもあります。そういった中で、太陽光発電と蓄電池を組み合わせることで、災害時にも最低限の電力を確保できるというニーズが高まっています。通常の業務は無理でも、災害時に携帯電話を充電したり、テレビでニュースを見られる程度の電力確保は、企業の最低限のBCP対策として重要視されています。」

接着施工という選択肢——その難しさと可能性

──一方で、施工現場ではどのような課題がありますか。

「屋根の種類、形状、素材、勾配、方角など、すべてが現場によって違います。特に接着施工の場合、屋根材の塗装状態や気象条件が直接、接着性能に影響します。だからこそ、事前の現場調査とテスト施工は不可欠です。また、塗装との相性によっては接着剤を調整したり、下地処理を追加する必要があったりします。標準化が難しい分、現場の柔軟な判断力と経験値が求められます。」

「当社が扱う『フレキシブルソーラーG+』は、従来の太陽光パネルに比べて割高です。特に近年、通常のパネル価格が大幅に下落する中で、相対的に価格差が広がっています。しかし、我々は『通常のパネルが設置できるのであれば、そちらをお勧めします』というスタンスです。我々の製品は、従来型では設置できない場所に新たな選択肢を提供するものだと考えています。」

──高所作業も多いと思いますが、安全面はどうされていますか。

「非常に重要視しています。高所での長時間作業に加え、風によるパネルの煽りや、滑りやすい屋根面など、リスクが多いため、施工前に現場環境を細かく確認します。作業員には安全帯の装着はもちろん、作業手順や接着時間を細かく管理してもらっています。こうした施工品質と安全性の両立には、研修と現場経験の積み重ねが必要不可欠です。」

ご説明をいただいている様子
ご説明をいただいている様子

技術と人の融合でつくる施工品質

──施工パートナーとはどのように連携していますか?

「現在、全国に提携施工会社や販売代理店が増えてきています。当社では、製品供給だけでなく、施工方法や養生期間、接着テストのやり方など、細かいガイドラインを共有し、研修を通じて技術の均一化に努めています。また、施工品質を担保するため、当社スタッフが立ち会うケースもあります。最初は時間がかかるのですが、数件一緒に施工すれば、パートナーの皆さんの理解度も上がっていきます。」

「『貼るだけ』だから簡単、という印象を持たれがちですが、実際は屋根という過酷な環境で何十年も耐える施工が求められます。その品質を支えるのは、やはり"人"なんです。」

事業化の課題と挑戦

──新規事業として取り組む中で、特に大変だったことはありますか。

「新規事業の難しさは、世の中に今までないものを広めようとする点にあります。また、知名度を上げる努力はもちろん、ビジネスモデル自体を構築していく必要があります。特に我々の場合、単にパネルを販売するだけでなく、施工方法の開発や研修制度の確立、保証制度の開発など、様々な付加価値を提供するため、大きな難しさがありました。」

「このように様々な付加価値を提供する分、当然コストもかかります。そのコストをパネル販売の利益から捻出しなければならないのですが、通常のパネルとの価格差を考えると、簡単ではありません。事業として成立させるためのバランスを取ることが、常に課題となっています。また、最初から必要な取り組みがすべて見えていたわけではなく、事業を進める中で新たな課題が次々と浮上してきました。例えば、雪国では積雪荷重の問題があることや、様々な屋根形状に対応する接着方法の開発など、当初の想定以上に対応すべきことが多かったです。」

日本独自の市場ニーズ

──世界的に見ると、この製品はどのような位置づけなのでしょうか。

「グローバルに見ると、太陽光パネル市場において日本は7位程度のシェアです。トップは中国、次いでアメリカですが、両国とも広大な土地があります。つまり、世界的には依然として地面に設置するメガソーラーが主流で、屋根や壁に設置する『オンサイト型』はニッチな市場と言えます。しかし、日本においては土地の制約が厳しく、メガソーラーの適地はほぼ開発済みです。また、メガソーラーの自然破壊や崩落事故などもあり、評判は良くありません。そのため、既存の建物の屋根や壁を活用する需要が高まっています。」

「世界的には、まだまだ重さを気にせずに設置できる『がっちり型』の太陽光モジュールが主流ですが、日本では軽量・フレキシブルタイプの需要が増えています。今年2月の展示会でも、複数の企業が薄型パネルを展示し、一つの分野として認知されつつあることを実感しました。」

先代社長のイラスト
先代社長のイラスト

次世代太陽電池との関係性

──注目されているペロブスカイト型太陽電池との関係は。

「ペロブスカイト型は全く異なる技術で発電する次世代の太陽電池です。興味深いことに、我々の製品をペロブスカイト型だと勘違いして問い合わせてくださるお客様も少なくありません。また、ペロブスカイトを開発しているメーカーから、接着施工の方法について相談を受けることもあります。現在、多くのメーカーはパネル自体の開発に注力していますが、今後は『どうやって設置するか』という課題に直面すると考えています。その際に、我々の接着施工のノウハウが活かせると考えています。」

「我々は『中継ぎ』のような役割だと考えています。野球で言えば、先発投手が5~6回投げた後、最後のクローザーまでの間をつなぐ中継ぎピッチャーのようなものです。できるだけ長く投げられる中継ぎになりたいというのが我々の思いです。

「貼る太陽光」が描く次のステージ

──今後の展望について教えてください。

「現時点では工場や倉庫などが中心ですが、今後はもっと広がっていくと見ています。たとえば、仮設住宅やイベント施設、ショッピングセンターの屋上、さらに地方自治体の防災施設など、重量や穴あけリスクがネックになっていた多くの建物に可能性があると思います。また、建材一体型や屋上緑化との組み合わせも期待しています。屋根だけでなく、壁やカーポート、日除けスペースなど、あらゆる"未活用空間"が太陽光の設置場所になる。そういった展開を見据えています。」

──車載や可搬型の利用も話題です。

「軽量性を活かして、物流車両やバスの屋根への搭載、あるいは可搬型バッテリーと組み合わせた仮設電源への展開も視野に入れています。特に災害時やイベントでの使用はニーズが高まっています。まだ社会実装フェーズではありませんが、実証実験などを重ねながら、用途拡大に取り組んでいきたいと思います。」

脱炭素を目指す企業に向けて

──最後に、脱炭素を目指す企業にメッセージをお願いします。

「脱炭素は"未来のための投資"です。しかし、ROI(投資回収)だけを見ていては進みません。『今すぐできることから始める』『既存設備を活かす』といった視点が必要です。私たちの『貼る太陽光』は、まさにそうした選択肢の一つです。大がかりな工事や高額投資ではなく、『これならやれるかもしれない』と思っていただけるきっかけになると信じています。脱炭素の道は、ひとつではありません。各社の事情に合わせて、最適な方法を一緒に探していければと思います。」

インタビュー中の一枚

まとめ

電巧社が提案する「貼る太陽光」は、単なる製品販売ではなく、施工技術の確立と品質保証を含めた総合ソリューションとして提供されています。創業約100年という長い歴史を持つ企業が、新たな市場ニーズに応えて挑戦を続ける姿勢は印象的でした。

特に注目すべきは、「諦めていた屋根や壁で発電を」というコンセプトの実現に向けた地道な取り組みです。接着剤の選定から施工方法の開発、研修制度の確立、保証の仕組みづくりまで、細部にこだわる姿勢が、この新しい市場を切り拓いています。

企業の脱炭素化が急務となる中、「これならできる」という選択肢を提供する電巧社の取り組みは、多くの企業にとって再エネ導入の新たな一歩となるはずです。