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【前編】ゼロから実践まで徹底解説!サプライヤーエンゲージメント大全—カーボンニュートラル経営の突破口

【前編】ゼロから実践まで徹底解説!サプライヤーエンゲージメント大全—カーボンニュートラル経営の突破口

温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組み(カーボンニュートラル)が世界中で急速に広がっています。日本でも、「2050年カーボンニュートラル」という目標が政府から掲げられ、大企業だけでなく、中小企業も脱炭素に向けて動き出しています。

ここで大きなカギとなるのが、「サプライチェーン」の存在です。サプライチェーンとは、原材料の調達から、部品の製造、製品の物流や販売まで、企業を取り巻くすべてのつながりのことです。実は、企業が排出する温室効果ガスの多くは、このサプライチェーンの中で生まれます。つまり、カーボンニュートラルに本気で取り組むためには、サプライチェーン全体で協力して脱炭素を進める必要があるのです。

だからこそ、今、取引先や協力会社との連携が「カーボンニュートラル達成の突破口」として注目されているのです。

この記事では、カーボンニュートラルに向けて、企業が取引先(サプライヤー)とどのように協力して進めていけばよいのか、やさしく解説します。脱炭素に興味のあるビジネスパーソンや学生、企業の担当者など、広い層の方におすすめです。

目次

カーボンニュートラルの基礎について

カーボンニュートラルとは何か

カーボンニュートラルとは、工場や住宅、自動車などから出る温室効果ガスをできるだけ減らして、ゼロにしようという考え方です。

私たちは日々、二酸化炭素を排出しながら生活をしています。エアコン、冷蔵庫、車での移動など。
この二酸化炭素は、地球に温暖化を引き起こす原因となっています。できるだけ排出しないで済むように抑えたいところですが、全ての排出をすぐに止めることは現実的ではありません。だけどもしも、自分が出した二酸化炭素を全部どこかで吸収してもらえたとしたらどうでしょうか?そうすれば地球にとってはプラスマイナスゼロですよね。
これが「カーボン(炭素:CO₂)ニュートラル(中立状態)」という考え方です。

カーボンニュートラルを実現するためには、二酸化炭素の排出量そのものを減らす考え方と、排出された二酸化炭素を吸収する考え方があります。例えば、森林に吸収してもらったり、新しい技術で回収して地中に埋めるという技術なども研究が進められています。

日本の政府も「2050年までにカーボンニュートラルを達成する!」と宣言をしています。今や世界の多くの国と企業が、未来のために同じゴールを目指しています。

カーボンニュートラルについて詳しく知りたい方は、ぜひ下記の記事もご確認ください。

参考:GX map『カーボンニュートラルとは?その基礎から取り組み内容まで詳しく紹介・解説します』

カーボンニュートラルのイメージ画像

重要キーワードのおさらい

カーボンニュートラルに関連して、おさえておきたいキーワードが「パリ協定」です。これは世界中の国が「地球の平均気温がこれ以上上がりすぎないよう頑張ろう!」と約束したルールのこと。世界中のみんなで、温暖化の度合いを「産業革命前に比べて2℃より小さく、できれば1.5℃以内に」収めようという目標に合意しました。

もうひとつキーワードをご紹介します。それは「scope」。
温室効果ガスがどこから排出されているのかを、3つのグループで管理する考え方です。具体的には、

  • scope1:自分の会社や工場から直接出るもの(たとえば工場の煙・車の排ガスなど)
  • scope2:会社で使う電気やガスなど、外から購入するエネルギーで間接的に出るもの
  • scope3:原材料の調達や商品の輸送、使い終わった後のゴミ処理など、取引先を含めた“会社をとりまくサプライチェーンの様々な段階”で出るもの

という分類をしています。

引用元:環境省『カーボンニュートラルとは』

こちらも、下記の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。

参考:GX map『scope 1・2・3の違いを分かりやすく解説』

企業に期待される役割

さて、カーボンニュートラルを実現するために、企業は何をすればよいのでしょうか?

ひとつは「自分たちの工場やお店、オフィスから出る二酸化炭素を減らす」こと。
そしてもうひとつは「取引先や物流、材料の供給元など、サプライチェーン全体として排出している二酸化炭素を減らす」ことです。
今回は後者について詳しく見ていきます。

引用元:経済産業省『第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組』

排出量算定のイメージ画像


サプライヤーエンゲージメントとは

サプライヤーエンゲージメントの定義と全体イメージ

「サプライヤーエンゲージメント」という言葉は、カタカナで少し難しく聞こえるかもしれません。でも、大丈夫。そんなにむずかしいことではありません。
「サプライヤー」とは、 取引先や材料を仕入れる相手の会社のことです。
企業が「サプライヤー」と一緒になって、温室効果ガス(CO₂など)を減らしていこうとする協力体制を作ったり、コミュニケーションを行うこと。それがサプライヤーエンゲージメントです。つまり“自社だけで頑張る”のではなく、“取引先とも協力”して地球と未来のために取り組む姿勢のことなのです。

どんな活動をするか(協働・働きかけの具体像)

それでは、実際にはどんなことをするのでしょうか?
大きく分けると「お願い」と「応援」の2つの方法があります。たとえば、

  • サプライヤーに「排出量を教えてください」「目標を立てましょう」「一緒に減らしましょう」と声をかける(お願い)
  • CO2測定ツールを無料で提供、排出量を減らすアイデアを共有したり、必要な設備やノウハウをサポートする(応援)

このように、困っているサプライヤーにアドバイスや協力をしながら、目標を決めて一緒に進むのがサプライヤーエンゲージメントです。

引用元:環境省「サプライヤーエンゲージメント事例集」

なぜ企業にとって必要か(自社単独では限界/Scope3対応)

そうは言っても、なぜわざわざ“みんなで協力”しないといけないのでしょう?
その理由の一つは、「自社だけでは限界がある」からです。
実は、企業が出している温室効果ガスの多くは、“自分たちの工場”ではなく、原材料の調達や輸送、お客様のもとへ届くまでの「サプライチェーン」(scope3)で発生しています。

例えば、身近な会社の例を見てみましょう。
飲料メーカーの「コカ・コーラ ボトラーズジャパン」では、自社が直接出す温室効果ガス(scope1・2)だけでなく、原材料の調達や製品の輸送などサプライチェーン全体(scope3)で発生する温室効果ガスも算定しています。そしてなんと、そのうち約85%がscope3という結果が出ているのです。

さらに、scope3の中でも「購入した製品・サービス」だけで全体の53%を占めています。(「購入した製品・サービス」とは、企業が外部から仕入れる原材料や部品、中間製品、最終製品、またソフトウェアなどのサービスまでを含みます。)

引用元:環境省『コカ・コーラ ボトラーズジャパンのサプライチェーン排出量』

上記に限らず、実は多くの企業で“自社の工場以外”が温室効果ガス削減の本丸となっています。自分の会社だけでどんなに頑張っても、このサプライチェーン全体で協力しなければ、本当に大きな削減はできません。

そのため、取引先と一緒にチームを組んで「知る・測る・減らす」のサイクルを回すことが重要なのです。

チームワークのイメージ画像

まとめ:カーボンニュートラル達成の「突破口」はサプライヤーとの協力

ここまで「サプライヤーエンゲージメント」が重要な理由や基礎的な知識をご説明してきました。

サプライヤーエンゲージメントに取り組むことで、企業は「scope3」にあたるサプライチェーン排出量までを効果的に減らせるようになり、本当に大きな成果を出すことができます。最近では、サステナビリティ調達やESG投資といった新しい基準・評価も進み、「サプライヤーと協力できるかどうか」が会社の未来を左右するポイントになっているのです。

こうした取り組みを実際に進めていくにあたっては、「分析→対象選定→目標設定→実行→データ収集や進捗確認」という流れがあります。やみくもに取り組むのではなく、順序立ててアプローチしていくことが成功の秘訣です。

後編では、こうした実践を進めるうえでの注意点やよくあるハードル、また国内外の先進事例、さらに「明日からできる一歩」として実践ツールやアクションリストも紹介していきます。お楽しみに!