GXの現在と未来を俯瞰する

電巧社が挑む再エネ革命ー「貼る太陽光」が拓く、再エネの新たな選択肢①

電巧社が挑む再エネ革命ー「貼る太陽光」が拓く、再エネの新たな選択肢①

【インタビュー対象者紹介】

(写真右側)

石原 敦夫 株式会社電巧社 社長補佐(環境ビジネス)

(写真左側)

大川 雄一郎 株式会社電巧社 営業本部 エネマネソリューション部 部長

カーボンニュートラルが企業の経営課題となる中で、「太陽光を導入したいのに屋根に載せられない」という声が、実は多く聞かれます。
建物が古い、設計上の制約がある、屋根に穴を開けたくない──そんな理由で再エネ導入を諦めていた企業に、新たな選択肢を提示するのが、令和10年に創業100周年を迎える老舗企業の電気商社 電巧社です。電巧社では、早い時期から再生可能エネルギー関連ビジネスの可能性に着目し、2019年から再エネ100宣言に参加。オフサイトPPAを始めとする様々な手法を実装し、2020年には再エネ率100%を達成しています。

こうした実績を活かしながら展開を開始したのが「諦めていた屋根、壁で発電を」というスローガンを掲げ、軽量で柔軟な太陽光パネルを接着施工で設置するビジネスです。今回は、同社の営業本部の石原さん・大川さんにお話を伺い、「貼る」という発想によって再エネ導入のハードルを下げた太陽光パネル「フレキシブルソーラーG+」の背景と挑戦についてうかがいました。

目次

再エネ導入の"意外な壁"

──まず、再エネ導入における課題として、どのような声をよく耳にされますか。

「世界的に見れば、太陽光パネルの設置場所に困ることは少ないかもしれません。しかし、日本では状況が異なります。日本では『オンサイト型』、つまり電気を使う場所の屋根や隣接地に太陽光を設置して自家消費するモデルが主流になってきています。FIT(固定価格買取制度)の買取単価も下がってきた中で、自分で作った電気を自分で使う『自家消費モデル』へとシフトしているのです。」

「いまやGXの一歩目といえる太陽光発電ですが、実際の現場では『重くて屋根に載せられない』『屋根が古く構造的に不安』『穴を開けると防水保証が切れてしまう』といった理由で、導入を断念される企業様が少なくありません。再エネへの関心は高まっているのに、物理的な制約や工事リスクで前に進めないケースは想像以上に多いと感じています。」

──それに対して、どのような提案をされているのでしょうか。

「そうしたお悩みに対応するために、"貼る太陽光"というまったく新しい選択肢をご提案しています。私たちが提案する『フレキシブルソーラーG+』は、従来型の太陽光パネルの半分以下の重さで、接着剤で貼り付けるという画期的な工法を採用しています。工場や倉庫など現場をよく知っているからこそ、従来の設置モデルとは違うアプローチが必要だと感じたんです。特に古い建物や荷重制限のある構造では、軽さや施工性が導入の鍵になります。」

インタビュー中の一枚
インタビュー中の一枚

電巧社とは──老舗が見据えた次の挑戦

──電巧社はいつから太陽光事業の取り組みを始められたのでしょうか。

「電巧社は1928年創業の電気設備会社で、主にビル・工場・インフラ向けの電気工事や機器販売を行ってきました。長年の取引先である法人のお客様から、太陽光導入に関するご相談をいただくことが増えてきたことで、2022年頃から軽量な太陽光パネルの取り扱いを本格的にスタートしました。」

「当初は『ちょっと珍しいな』という程度の認識だったのですが、実際に導入検討を進めていくと『この形状だからこそ使える場所が多い』と確信するようになりました。太陽光の導入では、国や地方自治体の補助金が活用できるケースが多いのですが、申請書の作成や各種ルールの対応は複雑なため、補助金申請業務のサポートも行っています。今では大手から中小企業まで、様々な現場からお問い合わせをいただいています。」

フレキシブルソーラーG+の3つの革新

──「フレキシブルソーラーG+」の特徴を教えてください。

「大きく3つあります。1つ目は『軽さと薄さ』です。ガラスを使わず、厚さも2.5~4mm程度と非常に薄く、耐荷重の小さい屋根でも施工可能です。従来のパネルは1㎡あたり約11kgあるのに対し、この製品は1/4~半分以下の重さ。これが"貼る"という選択肢を可能にしています。」

「2つ目は『接着施工』。穴を開けずに貼るだけなので、防水性を保ちながら設置できるのが最大の利点です。既存の屋根や防水層を傷つけずに済むので、補修コストを抑えつつ安心して施工できます。」

「3つ目は『柔軟な適応性』です。屋根だけでなく壁面や曲面など、形状に制約がある場所にも設置できます。北海道など雪国では、冬場に屋根が雪で覆われるため壁面設置が好まれることもあります。実際にそういったニーズにも応えられるのがこの製品の強みです。」

──他に、他社のサービスとの差別化の要素はありますか。

「差別化のポイントは3つあります。まず1つ目は、薄くて軽く、ちゃんと発電するモジュールを提供すること。2つ目は施工方法をしっかりと指導すること。そして3つ目は、それを保証する仕組みを作ることです。この3点セットで、他社との差別化を図っています。」

パネルのご説明をいただいているところ
パネルのご説明をいただいているところ

「貼る」という選択肢を支える施工体制

──接着施工と聞くと、簡単に見えて実は難しい部分も多いのではないでしょうか。

「おっしゃる通りです。実際には確実な接着のための事前テスト、適切な接着剤の選定、施工品質の確保など、専門的なノウハウが求められます。接着の信頼性を担保するために、建物ごとに試験を行い、20年以上の耐久性を想定して設計・施工しています。弊社では、実際に施工前に『試験チップ』と呼ばれるアルミ製の試験片を使って、接着剤が屋根材にしっかりと接着するかをテストします。」

「接着剤は季節的な変動もありますが、約2週間で固まります。その後、引っ張り試験器という機械を使って、どれだけの力に耐えられるかを確認します。この試験に合格した場所だけに施工を行うことで、品質を担保しています。」

──施工体制はどのように整備されているのでしょう。

「当社では代理店向けに研修制度を設けており、施工方法を学んだ方にライセンスを発行しています。施工現場には必ずライセンス保持者が立ち会い、作業の品質を担保する体制を整えています。現在、東日本と西日本に研修拠点を設け、定期的な施工者教育を実施しています。」

「また、施工完了後には完成報告書を提出していただき、当社が確認・承認した上で『電巧社保証』を発効します。これは、代理店が行った施工の品質を電巧社がエンドユーザーに対して保証するというものです。品質面でも安心していただける仕組みにしています。」

──ほかにも工夫されている点はありますか。

「屋根の防水年数との兼ね合いも非常に重要です。例えば屋根の防水層が10年保証で、太陽光パネルが25年使えるとしても、途中で屋根防水の改修が必要になります。その際にはパネルを一度外し、再施工する必要があるため、取り外し可能な設計や、防水メーカーとの連携も欠かせません。こうしたきめ細かな調整が、現場では求められるんです。」

「陸屋根(平らな屋根)には防水との取り合いという課題があり、折半屋根(波形の屋根)には様々な形状への対応が必要です。住宅の屋根となると、さらに多様な瓦や材質があり、それぞれに適した施工方法を開発していく必要があります」


次回の【後編】では、実際の導入企業の声や施工上の課題、フレキシブルパネルが持つ今後の展望について詳しくお届けします。