GXの現在と未来を俯瞰する

カーボンニュートラルとDXの関係とは?脱炭素経営を進めるデジタル活用の実例

カーボンニュートラルとDXの関係とは?脱炭素経営を進めるデジタル活用の実例

近年、「カーボンニュートラル」や「脱炭素経営」という言葉を耳にする機会が急速に増えています。一方で、それと同時に語られる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」との関係については、「なぜ一緒に語られるのか」「何をすればいいのかが分かりにくい」と感じている企業担当者も多いのではないでしょうか。

実際、脱炭素への取り組みは単なる環境対策ではなく、排出量を正確に把握し、コストと効果を見極めながら継続的に改善していく"経営の取り組み"です。その過程で不可欠になるのが、データを扱い、意思決定を支えるDXです。

本記事では、カーボンニュートラルとDXの関係、なぜ脱炭素経営にDXが不可欠なのか、実際の取り組み事例を中心に、実務視点で整理していきます。

目次

カーボンニュートラルとDXの関係とは?脱炭素経営を進めるデジタル活用の実例

近年、「カーボンニュートラル」や「脱炭素経営」という言葉を耳にする機会が急速に増えています。一方で、それと同時に語られる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」との関係については、「なぜ一緒に語られるのか」「何をすればいいのかが分かりにくい」と感じている企業担当者も多いのではないでしょうか。

実際、脱炭素への取り組みは単なる環境対策ではなく、排出量を正確に把握し、コストと効果を見極めながら継続的に改善していく"経営の取り組み"です。その過程で不可欠になるのが、データを扱い、意思決定を支えるDXです。

本記事では、カーボンニュートラルとDXの関係、なぜ脱炭素経営にDXが不可欠なのか、実際の取り組み事例を中心に、実務視点で整理していきます。

カーボンニュートラルとDXの関係

まず、カーボンニュートラルとDXがどのような関係にあるのかを明確にしておきましょう。この2つは別々のテーマではなく、密接に結びついています。

「車の両輪」としての位置づけ

カーボンニュートラルとDXは、「排出量を正確に見える化し、最小のコストで最大の削減を進めるために、デジタル技術を活用する関係」にあります。

この考え方は、国の成長戦略でも明確に位置づけられています。たとえば、経済産業省が公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、「グリーン成長戦略を支えるのは、強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは、車の両輪である」と明記されています。

GX(グリーントランスフォーメーション)においても、デジタル技術の活用は脱炭素を進めるうえで不可欠な要素と位置づけられています。政府の方針として、環境対策とデジタル化を別々に進めるのではなく、統合的に推進することが示されているのです。

引用元:経済産業省『グリーン成長戦略』

用語の整理

詳しい内容に入る前に、用語を整理しておきましょう。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を均衡させ、実質的に排出ゼロを目指す考え方です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データやデジタル技術を活用し、業務プロセスやビジネスモデルを変革して、付加価値や競争力を高める取り組みを指します。

そして脱炭素DX(GX×DX)は、デジタル技術(IoT・クラウド・AIなど)を活用して脱炭素を効率的に進め、環境負荷の低減とビジネス成長を同時に実現しようとするアプローチです。

このように見ると、DXは目的ではなく、脱炭素経営を現実的に回すための"基盤"であることが分かります。

なぜDXが重要なのか

カーボンニュートラルを目指すにあたって、デジタルに頼らずに活動を行うことも不可能ではありません。しかし、DXを導入することでより効率的に、効果を出しやすくなります。

ここからは、なぜDXがカーボンニュートラルにおいて重要なのかを整理します。

1. データ量と複雑さへの対応

脱炭素経営では、次のようなデータを扱う必要があります。

拠点ごとの電力・燃料使用量、設備・工程単位のエネルギー消費、物流・輸送に伴う排出量、サプライチェーン全体(Scope3)の排出量など、扱うべきデータは多岐にわたります。

これらを定期的に集計し、分析し、改善につなげる作業は、手作業では非効率なことに加えて、属人化もしやすくなってしまいます。特定の担当者しか集計方法を知らない、担当者が異動すると業務が止まる、といった問題が発生しやすいのです。

DXにより、センサーや既存システムからの自動データ収集、クラウドでの一元管理、排出量の自動算定・可視化が可能になり、継続的な排出量管理が実務として成立しやすくなります。

一度仕組みを構築すれば、毎月・毎年の集計作業が大幅に効率化され、人的ミスも減らすことができます。

2. 削減余地の特定とエネルギー最適化

排出量削減を進めるにあたっては、「どこに投資すれば最も効果が高いか」を判断する必要があります。

しかし、データが粗いままでは、どの設備がムダにエネルギーを使っているのか、時間帯・稼働条件による違い、投資による削減効果を正確に把握できません。

たとえば、「工場全体で年間○○kWhの電力を使っている」という情報だけでは、具体的な改善策を立てることは困難です。どの工程で、いつ、どれだけ使っているのかという詳細なデータがあってこそ、効果的な対策を打つことができます。

DXを導入することで、AIやIoTを活用してエネルギー使用状況を詳細に分析し、最適な運転条件や停止タイミングを導き出しやすくなります。設備の稼働データをリアルタイムで収集・分析することで、これまで見えなかった無駄や改善の機会を発見できるのです。

3. サプライチェーン・金融要請への対応

近年、Scope3を含む排出量開示や、取引先からの排出データ提出要請が急増しています。

紙やメール、Excelでのやり取りでは、回収漏れ、データ形式の不統一、集計負荷の増大といった問題が発生しやすくなります。特に、数十社、数百社の取引先から個別にデータを集めて集計する作業は、想像以上に大きな負担になります。

そこでDXを導入すると、サプライヤーとのデータ連携基盤、製品別・顧客別排出量の算定、ESG・GX関連の報告対応を効率的に行えるようになります。

標準化されたフォーマットでデータを収集し、自動的に集計・分析する仕組みがあれば、年次報告や取引先への回答が大幅に効率化されます。こうした基盤を持つ企業は、金融機関や投資家からの評価も高まりやすいとされています。

カーボンニュートラル×DXの具体事例(国内)

理論だけでなく、実際にどのような取り組みが行われているのかを見ることで、より具体的なイメージを持つことができます。

国内でも、DXを活用した脱炭素活動の事例が続々と生まれてきています。この章では、実際の取り組み内容を見ていきましょう。

1) 工場・ビルの省エネ最適化

工場では、同じ生産量でも「いつ・どの設備で・どの順番で作るか」でエネルギー消費が大きく変わります。

日立製作所と住友化学は、AIを活用した生産計画の自動立案システムを実工場で検証開始しています。工場全体の生産計画に、契約電力・自家発電・エネルギーの融通なども織り込んで、エネルギー消費やCO₂排出の削減を狙う取り組みです。

従来は、生産計画とエネルギー管理が別々に行われていましたが、これらを統合的に最適化することで、生産性を維持しながらエネルギー消費を削減できる可能性があります。

引用元:日立製作所『日立と住友化学、AIを活用し、エネルギー消費の低減・最適化を図る 生産計画の自動立案システムの実用化に向け、実工場での検証を開始』

また、ビルの省エネ化にDXを活用するケースもあります。ダイキン工業では、空調機の運転データとAIによる熱負荷予測を組み合わせ、最適な空調制御を自動で行うサービスを開発しました。

外気温や利用状況を踏まえた最適制御により、快適性を維持しながら空調エネルギーの大幅削減を実現することを目指しています。オフィスビルでは空調が全体エネルギー消費の大きな部分を占めるため、この最適化は大きな効果をもたらします。

引用元:DAIKIN『遠隔自動省エネ制御』

2) 排出量の見える化(算定・集計の自動化)

脱炭素活動の中核を担うのは実態を見える化するための算定業務。重要であると同時に、手間のかかる業務でもあります。DXによって、自動収集・自動集計・帳票化で負担を軽減することが可能です。

例として、ウイングアーク1stの「EcoNiPass」は、サプライチェーン全体のCO₂可視化から、省エネ法の報告レポート、製品あたりのCO₂(CFP)の可視化などをうたっています。

クラウドサービスは他にも多くの企業から提供されており、特定の業界に最適化されたツールなども存在します。たとえば、製造業向け、物流業向けなど、業種特有のデータ構造や算定方法に対応したツールが開発されています。

こうしたツールを活用することで、毎月の集計作業が数日から数時間に短縮されるケースもあり、担当者の業務負荷が大幅に軽減されます。

引用元:ウイングアーク1st『CO2排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass」』

参考:株式会社リバスタ『Tansomiru』

3) 再エネ・分散電源の制御(需要予測・制御)

エネルギー領域においては、再エネ拡大で需給変動が大きくなるほど、DXが効果を発揮します(需要予測、最適運用、保守高度化など)。

例えば東京ガスは、GX×DXとして、AIを活用したe-methaneの新物質探索・開発、シミュレーションや画像解析による風力発電設備の最適設計・運転制御・保守に向けた開発を挙げています。

再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、需要予測と組み合わせた最適な運用制御が重要になります。DXを活用することで、気象データや過去の実績データを基に精度の高い予測を行い、エネルギーの無駄を最小化することができます。

引用元:東京ガス『「DX 注目企業 2023」に選定(PDF)』

4) サプライチェーンのデータ収集・開示対応(Scope3/CFP)

脱炭素経営が進展する中で、企業単体の排出量(Scope1・2)だけでなく、サプライチェーン全体での排出量管理(Scope3)や、製品単位の排出量算定(CFP:カーボンフットプリント)への対応が重要性を増しています。

特に近年は、大企業を中心に取引先企業へ排出量データの提出を求める動きが広がっており、紙やExcel、メールベースでの対応では、業務負荷・精度・継続性の面で限界が指摘されています。

こうした背景から、サプライチェーンの排出量管理においてもDXの活用が進められています。環境省が公表しているサプライチェーン脱炭素支援事業では、サプライヤーからの排出量データをデジタルで収集・管理する取り組みが紹介されています。

これらの事例では、サプライヤーが入力するデータ項目・算定ルールを統一、Webフォームやクラウドシステムを通じてデータを回収、回収したデータを自動集計し、Scope3排出量に反映といった仕組みが構築されています。

従来は個別調整が必要だったデータ回収業務の負荷が軽減され、Scope3算定を定常業務として継続可能な形に移行しています。数百社のサプライヤーから毎年データを集めるような場合、このデジタル化は業務継続のために不可欠となります。

引用元:環境省 『サプライチェーン全体の脱炭素化に向けた支援事業への参加企業を募集します』

中小企業にもカーボンニュートラル×DXは必要?

ここまで見てきた事例は、主に大企業の取り組みでした。では、中小企業にとってはどうでしょうか。

段階的な取り組みが現実的

中小企業においても、カーボンニュートラルや脱炭素経営への対応は、今後ますます重要性を増すと考えられています。

ただし、大企業と同水準の投資や高度なDXを直ちに求められるわけではなく、自社の規模や体制に応じて、段階的に取り組むことが現実的な対応と整理できます。

中小企業の排出量も無視できない

中小企業庁の白書では、中小企業が国内排出量の一定割合を占めていることに加え、サプライチェーンの維持・強化の観点からも、中小企業によるカーボンニュートラル推進の必要性が示されています。

日本の企業数の99%以上は中小企業であり、その集合体としての排出量は決して小さくありません。また、大企業のサプライチェーンに組み込まれている中小企業は、取引先からの要請に対応する必要も出てきます。

引用元:中小企業庁『2023年版 小規模企業白書 第2節 中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラル』

身の丈に合った取り組みから

また、環境省は、中小規模事業者向けに脱炭素経営のモデル事業や導入事例集を公開しており、業種や規模が近い企業の事例を参考にしながら、無理のない形で取り組みを始められるよう整理しています。

中小企業の場合、最初から高度なAIシステムを導入する必要はありません。まずは電力使用量の見える化から始め、次にクラウド型の簡易算定ツールを使う、といった段階的なアプローチが推奨されています。

重要なのは、完璧なシステムを最初から構築することではなく、自社にとって管理可能な範囲で、継続的にデータを蓄積していく仕組みを作ることです。

引用元:環境省『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集(PDF)』

まとめ

本記事では、カーボンニュートラルとDXの関係を整理してきました。

カーボンニュートラルは、単なる環境配慮や宣言ではなく、排出量を把握し、削減し、その結果を説明し続ける「継続的な経営活動」です。その過程では、エネルギー使用量や排出量といったデータを正確に管理し、意思決定に活かすことが求められます。DXは、その基盤となる役割を担っています。

特に、排出量の可視化、設備・エネルギー運用の最適化、サプライチェーン全体でのデータ収集や開示対応といった領域では、デジタル技術の活用なしに実務を回し続けることは難しくなりつつあります。

一方で、すべての企業が同じ水準の取り組みを行う必要はなく、自社の規模や体制に応じて、段階的に進めていくことが現実的な選択肢となります。

重要なのは、DXを目的化するのではなく、脱炭素経営を「測る・判断する・改善する」ための手段として位置づけることです。小さな取り組みからでも継続的にデータを蓄積し、改善を重ねていくことで、脱炭素は負担ではなく、経営基盤を強化する取り組みへとつながっていきます。

自社にとって無理のない一歩を見極め、着実に取り組みを進めていくことが、今後の企業経営において重要になると言えるでしょう。

国が「グリーンとデジタルは車の両輪」と位置づけているように、この2つは切り離せない関係にあります。脱炭素への対応を検討する際には、同時にデジタル化の視点を持つことで、より効率的で持続可能な取り組みが可能になるのです。