脱炭素先行地域とは
脱炭素先行地域の定義と目的
脱炭素先行地域とは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、家庭・業務での電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロにすることを目指す地域です。
さらに、運輸部門や熱利用などの温室効果ガス排出削減についても、日本全体の2030年度目標(2013年度比46%削減)と整合する形で、地域特性に応じた削減を実現します。これらの地域は、全国的な脱炭素化を促進する「実行の脱炭素ドミノ」のモデルケースとしての役割を担っています。
脱炭素先行地域の背景と重要性
日本政府は、「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を設定し、2030年度までに本格的な脱炭素化を実現する方針を掲げています。
この取り組みは、地方自治体や地元企業・金融機関が主体となり、環境省を中心とした国の積極的な支援のもとで進行中です。
特に重視されているのは、農山漁村、離島、都市部の街区など多様な地域における脱炭素化の推進。地域課題の解決と住民の生活の質向上を同時に達成しながらの脱炭素の達成、さらに脱炭素化が地域の成長戦略と結びつくことによる地方創生への寄与が期待されているのです。
脱炭素先行地域のメリット・デメリット
脱炭素先行地域にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
それぞれ解説します。
メリット
脱炭素先行地域に選定されるメリットとして挙げられるのは、交付金を得られること、また地域社会の活性化などです。
例えば、再生可能エネルギーの導入は、地域内でのエネルギー生産を促進し、エネルギーコストの削減や新たな収益源の創出につながります。これにより、地域内での資金循環が生まれ、新たな産業や雇用の創出が期待できるのです。
デメリット
脱炭素先行地域のデメリットとして、導入・運用コストや、技術的なハードル、地域特性に応じた制約が挙げられます。
再生可能エネルギー設備の導入には初期投資、また維持管理コストも必要です。更に、最低可能エネルギーの安定供給には高度な技術が求められる点、地域のインフラの整備状況によっては導入が難しい場合もあります。
脱炭素先行地域の選定条件を徹底解説
選定基準
脱炭素先行地域の選考は、地域の特性や実現可能性を考慮し、以下に示す前提となる事項を考慮した上で、評価基準に基づいて評価されます。
<前提となる事項>
事業の各年度のスケジュールが適切に計画されていること、地方公共団体実行計画の目標が、地球温暖化計画の目標にとどまらない野心的な水準であること
<評価基準>
- 先進性・モデル性
- 地域経済循環への貢献
- 事業性
- 取り組みの規模・効果及び電力需要における自家消費率・地産地消率
- 再エネ設備の導入量及びその確実性
- 需要家・供給業者・関係者との合意形成
- 地域の将来ビジョンとの整合性
選定プロセス
2025年度までをめどに、環境省が脱炭素先行地域の計画提案を年2回程度募集します。応募する地方公共団体は、当該募集期間に地方環境事務所に計画提案書を提出することで応募となります。
選定プロセスのフローは以下の通りです。

第5回 脱炭素先行地域一覧
第5回脱炭素先行地域では、以下の地域が選ばれています。
令和6年12月16日時点で、全国38道府県107市町村の81提案が選定されました。

脱炭素先行地域に関する支援制度や交付金
脱炭素先行地域の実現を加速させるため、政府はさまざまな支援制度や交付金を用意しています。各制度は、再生可能エネルギーの導入、エネルギーインフラの整備、地域経済の活性化など、幅広い目的で活用可能です。
主要な交付金について解説します。
特定地域脱炭素移行加速化交付金
特定地域脱炭素移行加速化交付金は、官民連携によって民間事業者が利益を享受する自営線マイクログリッドを構築する地域が対象です。再生可能エネルギーや省エネルギー、蓄エネルギーなどの脱炭素技術の導入が支援の対象であり、地域内でのエネルギー自給率の向上や、民間事業者への再エネ供給を促進し、地域経済の活性化を図ります。
民間裨益型自営線マイクログリッド等事業
民間裨益型自営線マイクログリッド等事業は、地方公共団体や事業者が自ら敷設する電線(自営線)を活用し、需要設備、再エネ設備、蓄電池などを接続することで、小規模なエネルギーネットワーク(マイクログリッド)を構築する取り組みです。系統連系が困難な地域でも再エネの導入や利用が可能となり、エネルギー自立を促進できます。また、自営線を通じた民間事業者への再エネ供給や、省エネ設備の導入支援を通じた地域経済の活性化も目指しています。
地域脱炭素移行・再エネ推進交付金
地域脱炭素移行・再エネ推進交付金は、地方公共団体が主体となり、地域全体で再エネ、省エネ、蓄エネといった脱炭素技術の需要を創出し、投資を拡大することを目的とする交付金です。具体的な支援内容は、再エネ発電設備の導入、基盤インフラ(蓄電池、自営線、熱導管、エネルギーマネジメントシステム等)の整備、省CO2設備の導入など。地域社会と住民の生活を脱炭素化し、持続可能な社会の実現を目指しています。
脱炭素先行地域の取り組み事例
鳥取県
鳥取県では、省エネ性能の高い住宅「とっとり健康省エネ住宅(NE-ST)」の普及を推進し、住環境の改善とエネルギー消費の削減を両立中です。さらに、太陽光発電や風力発電の導入を積極的に進め、地域内でのエネルギー自給率向上を目指しています。
引用元:とっとり健康省エネ住宅(鳥取県)
島根県邑南町
島根県邑南町では、農業分野での脱炭素化、バイオマスエネルギーの活用や環境負荷の少ない農業技術の導入を推進中です。さらに、地域資源を活用した再生可能エネルギーの生産と消費のサイクルを確立し、エネルギーの地産地消を実現しています。
福島県桑折町
福島県桑折町では、再生可能エネルギーの導入によって、災害時のエネルギー供給安定化を目指しています。特に太陽光発電と蓄電池の組み合わせによる効果が大きく、地域住民との連携を強化し、環境教育や地域イベントを通じた脱炭素化の意識向上も推進中です。
企業が脱炭素先行地域に参画する方法
企業が脱炭素先行地域に参画する方法として、スマートシティ計画との統合、地域脱炭素推進コンソーシアムへの参加、自営線マイクログリッドの構築などが挙げられます。
まず、スマートシティ計画との統合においては、スマートシティ施策と脱炭素戦略を計画段階から戦略的に結びつけることで、脱炭素化の取り組みをより効果的に推進可能です。例えば、エネルギー利用の効率化や再生可能エネルギーの普及の推進により、地域全体の脱炭素化に貢献できます。
また、地域の脱炭素化を推進するためのコンソーシアムに参加し、多様な企業・機関の参画や連携を促進することができます。例えば、千葉市では、再生可能エネルギーの導入や地産地消、市民や事業者の行動変容の促進等に取り組むコンソーシアムが設立されています。
さらに企業は、地方公共団体や事業者と協力して、自ら敷設する電線(自営線)を活用し、需要設備、再生可能エネルギー設備、蓄電池などを接続することで、小規模なエネルギーネットワーク(マイクログリッド)の構築が可能です。このような形で脱炭素先行地域に関わることもできます。
まとめ|脱炭素先行地域の意義と今後の展望
脱炭素先行地域は、地域の特性を活かした脱炭素化のモデルとして重要な役割を担っています。脱炭素先行地域は、環境負荷の軽減だけでなく、地域経済の活性化や新産業の創出への貢献も期待されている取り組みです。企業の参画も重要であり、自治体との連携によって持続可能な発展が可能に。
今後も、さらなる技術革新と制度の充実が求められ、全国的な脱炭素化の波及が期待されています。