脱炭素経営について
脱炭素経営とは、企業がCO2排出を抑えながら事業を展開する経営の考え方です。再生可能エネルギーの導入や省エネの工夫、サプライチェーン全体での取り組みなどが含まれます。
気候変動への対応が求められる今、環境への配慮はもちろん、企業の信頼性向上やESG投資の対象になるなど、ビジネス面でも大きなメリットがあります。持続可能な成長を目指すうえで、欠かせない視点といえるでしょう。
脱炭素経営の3つの取り組み
脱炭素経営について、実際にはどのような取り組みをしているのか、主な3つの要素についてご紹介していきます。
TCFDについて
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が気候変動によるリスクやチャンスをどのように考え、対策しているかを投資家などに分かりやすく伝えるための仕組みです。金融の専門機関が作ったもので、「経営の方針」「戦略」「リスクの管理」「目標」の4つのポイントに分けて情報を公開することを求めています。
現在日本においても多くの上場企業が対応しているTCFDは、2024年に解散し今後はその仕組みを踏襲するISSB(IFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会)、国内ではSSBJ(日本版サステナビリティ開示基準)への対応が求められることになります。
企業にとっては、環境問題にしっかり取り組んでいることをアピールし、信頼を高めるチャンスにもなります。
SBTについて
SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定の目標に沿って企業が科学的根拠に基づき設定するCO2削減目標のことです。SBTイニシアチブ(SBTi)が認定し、「1.5℃目標」や「2℃未満目標」に合わせた削減計画が求められます。
企業にとっては、脱炭素経営を進めるうえで国際的な基準を満たす指標となり、企業価値やブランド力の向上につながる重要な取り組みです。
RE100について
RE100は、事業で使う電力を100%再生可能エネルギーに切り替えることを目指す企業の国際的なイニシアチブ(共同宣言)です。世界の大手企業が参加し、風力や太陽光などのクリーンエネルギーの活用を進めています。
環境負荷を減らし、気候変動対策に貢献するとともに、企業ブランドの向上やコスト削減にもつながります。持続可能な社会の実現に向け、注目されている取り組みの一つです。
脱炭素経営へのステップとは
脱炭素経営を進めるには、どのようなステップが必要となるかを解説していきます。
ステップ①気候リスクとビジネスチャンスの特定
まずは、自社のビジネスが気候変動によってどんな影響を受けるのかを把握することが大切です。例えば、異常気象が原因で原材料の調達が難しくなったり、物流コストが上がったりするリスクが考えられます。
一方で、省エネ技術や再生可能エネルギーを活用することで、新しい市場やビジネスチャンスを生み出せる可能性もあります。TCFDの考え方を参考にしながら、自社にとってのリスクとチャンスをしっかり分析し、経営戦略に活かしていくことが重要です。
ステップ②温室効果ガスの排出量を把握する
脱炭素経営を進めるには、現状どれくらいのCO2を排出しているのかを正確に知る必要があります。排出量は以下3つに分けられます。
- scope1:自社の工場や設備から出るもの
- scope2:購入した電気によるもの
- scope3:仕入れや物流、製品の使用・廃棄まで含めたもの
出所:知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは(経済産業省 資源エネルギー庁)
特にscope3はサプライチェーン全体が関係するため、取引先とも連携してデータを集めることが大事です。自社の排出状況を可視化することで、どこに改善の余地があるのかを明確にできます。
ステップ③温室効果ガス削減目標の設定と削減計画の策定
排出量が分かったら、「どれくらい削減するのか」「どの方法で減らすのか」を決めていきます。例えば、「2030年までにCO2を50%減らす」など、短期・中期・長期の目標を設定するのが一般的です。
SBTのような国際的な基準に沿って目標を立てると、投資家や取引先からの信頼も得やすくなります。その上で、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーへの切り替え、サプライチェーンの見直しなど、具体的なアクションプランを作成していきます。
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|①SBTの基礎と企業価値への影響(デジタルグリッド株式会社)
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|②SBT取得のメリットと具体的事例(デジタルグリッド株式会社)
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|③SBT取得への実践的アプローチ(デジタルグリッド株式会社)
ステップ④温室効果ガス削減計画の実行
計画を立てたら、いよいよ実行です。LED照明の導入や設備の省エネ化、再生可能エネルギーの活用、廃棄物の削減など、できることから始めます。また、従業員への環境教育を行ったり、取引先と協力してサプライチェーン全体で脱炭素を進めたりすることも重要です。
定期的に進捗をチェックし、必要に応じて計画を見直しながら、目標達成を目指します。さらに、成果をレポートなどで公表することで、競争力の向上と市場での優位性確保にもつながります。

脱炭素経営のメリット
脱炭素経営を取り入れることは、サステナビリティを重視した事業運営を実現し、持続可能な環境の保全に貢献する重要な取り組みです。脱炭素経営がもたらす5つのメリットについて詳しくご紹介いたします。
①経営ビジネスの成長
グローバルに事業を展開する大企業では、脱炭素への関心が特に高まっています。脱炭素経営を進めることで、環境対策を重視する他の企業や関係者からも評価され、ビジネスチャンスを得られる可能性もあります。環境意識の高い企業としての評価が高まり、持続可能な経営の実現にも寄与するでしょう。
②エネルギーコストの低減
脱炭素経営を進める中で、環境負荷の少ない設備を導入すると、エネルギー消費を抑えられ、結果的にコスト削減につながります。その分、運用コストや維持費の負担も軽くなり、設備をより効率的に活用できるようになります。
環境対策だけでなく、経済的なメリットも得られるため、持続可能な経営の実現に向けた有効な手段といえます。
③経営サポートの有効活用
近年、金融機関において脱炭素経営への取り組みが融資判断の重要な要素となっています。環境負荷の低減に努める企業は、ESG投資やサステナブルファイナンスの観点から評価され、優遇条件での資金調達が可能になる場合があります。
そのため、脱炭素経営を推進することは、企業の信頼向上だけでなく、資金調達の面でも大きなメリットをもたらします。
④市場での認知拡大
脱炭素経営を推進することで、企業の環境意識の高さが市場で評価され、ブランド価値の向上につながります。特に、環境配慮を重視する消費者や取引先、優秀な人材の関心を引きやすく、競争優位性を確立しやすくなります。
企業が脱炭素経営を推進することで、他社も同様の施策を取り入れる動きが広がります。特に、業界のリーディングカンパニーの取り組みは影響力が大きく、業界基準となるケースもあります。
⑤助成金・補助金の有効活用
脱炭素経営を推進する企業を対象に政府はさまざまな補助金や支援制度を用意しています。脱炭素経営をしていく中でどうしてもコストがかかる点は避けられない問題になるので、助成金・補助金を活用できるのは大きなメリットの1つとも言えます。
脱炭素経営のデメリット
脱炭素経営を始める際のデメリットについても解説していきます。
①導入・維持にコストがかかる
脱炭素経営を進めるためには、最新の設備導入が必要となるため、大規模な初期投資がかかり、企業にとって大きな負担となる場合があります。しかし、補助金や優遇税制を活用することで、コストの一部を軽減することが可能です。
確かに短期的には大きな支出となりますが、長期的に見るとエネルギーコスト削減や企業価値向上につながるため、戦略的な投資として検討することが重要です。
②脱炭素化経営の専門人材の確保が困難
脱炭素経営に取り組んでいる企業はまだ多くなく、専門知識を持つ人材も不足しているのが現状です。そのため、専門家の意見を取り入れながら進めることや、社内で人材を育成していくことが大切です。
人材育成には時間がかかりますが、将来的には後継者不足の解消にもつながるため、長期的な視点で計画的に進めていくことで得られる恩恵は計り知れません。
まとめ
脱炭素経営は世界的に注目されており、日本でもグローバル企業を中心に取り組みが進んでいます。しかし、実施にはコストがかかるうえ、専門的な知識も求められるため、すぐに大きな変革をするのは難しいかもしれません。
だからこそ、できることから少しずつ始めることが大切です。未来のために、今できる取り組みを進め、持続可能な社会の実現を目指していきましょう。