「CO2を減らすって言っても、どれくらい減らせばいいんだろう...」 「取引先から突然、環境への取り組みについて質問状が届いて困っています」 「投資家からESG評価の説明を求められているのですが...」
こんな声が、大企業だけでなく中小企業からも日増しに増えています。その背景には、世界的な環境意識の高まりと、企業に求められる具体的なアクションの変化があります。
本記事から3本立てで現在注目されているSBTについて、環境教育と持続可能な社会づくりの専門家である池田陸郎がわかりやすく解説します。

「CO2を減らすって言っても、どれくらい減らせばいいんだろう...」 「取引先から突然、環境への取り組みについて質問状が届いて困っています」 「投資家からESG評価の説明を求められているのですが...」
こんな声が、大企業だけでなく中小企業からも日増しに増えています。その背景には、世界的な環境意識の高まりと、企業に求められる具体的なアクションの変化があります。
本記事から3本立てで現在注目されているSBTについて、環境教育と持続可能な社会づくりの専門家である池田陸郎がわかりやすく解説します。
かつての環境への取り組みは、企業の自主的な活動という位置づけでした。「できる範囲で」「可能な限り」というアプローチで、具体的な数値目標を持たない企業も少なくありませんでした。
しかし、気候変動問題が深刻化する中、そうした曖昧な目標設定では不十分だという認識が世界的に広がっています。特に、パリ協定が採択された2015年以降、企業にも国と同様の明確な削減目標が求められるようになってきました。
そんな中で注目を集めているのが「SBT(Science Based Targets)」です。これは「なんとなく」や「できる範囲で」といった従来型の目標設定ではなく、科学的な根拠に基づいたCO2削減目標として、世界中の企業が取得を進めています。
2025年2月時点での世界の認定企業数は7,000社以上となっています。日本企業も着実に増加し、特に以下のような場面で重要性が高まっています。
このように、SBTは単なる環境目標の設定手法ではなく、企業の持続可能性を示す重要な指標として認識されつつあります。特に最近では、サプライチェーン全体でのCO2削減が求められる中、中小企業にとっても他人事ではない課題となってきています。
SBTについての説明の前に、SBTとSBTiの違いを理解しておきましょう。
例:「2030年までに2018年比でスコープ1,2のCO2排出量を42%削減する」
つまり、SBTは「目標」そのもの、SBTiは「その目標を評価・認定する組織」という関係にあります。企業がSBT認定を取得するということは、自社で設定した目標をSBTiに提出し、その科学的根拠を認めてもらうということを意味します。
SBTは、パリ協定が掲げる「世界の平均気温上昇を1.5度以下に抑える」という目標に整合した、企業のCO2削減目標です。では、なぜ1.5度なのでしょうか?
気温上昇を1.5度に抑えることができなければ、異常気象の増加、海面上昇、生態系への影響など、取り返しのつかない環境変化が起こると予測されています。この目標達成のために、世界各国が自国の削減目標を設定していますが、それだけでは不十分です。企業活動による排出も大きな割合を占めているためです。
そこでSBTは、企業に対してもパリ協定と同じ水準の目標設定を求めています。具体的には、基準年から2030年に向けて年率4.2%のCO2削減を求めています。この4.2%という数字は、1.5度目標の達成に必要な削減率として科学的に算出されたものです。

SBTによる認定は、先に説明した通りSBTi(Science Based Targets initiative)という国際的なイニシアティブが行っています。
情報は常に変化しますので、最新のものをご確認ください。
2024年10月にSBTi検証ポータルサイトが開設され、申請はそちらから可能となりました。
中小企業:1,250ドル
審査では特に以下の点が重視されます。
SBTiのウェブサイトでは認定企業データが公開されており、誰でも閲覧・検索が可能です。
SBTにおける削減目標の範囲は、「scope1,2,3」という3つの区分で定められています。これらを正確に理解することが、SBTへの取り組みの第一歩となります。
詳しくは、環境省によるサプライチェーン排出量に関する資料をご覧ください。
今後、GXmapでも「scope1,2,3」についてわかりやすく解説いたします。
SBTにおける「中小企業」の定義は、私たちが一般的に認識している中小企業の定義とは大きく異なります。日本では中小企業基本法による定義が広く知られていますが、SBTでは独自の基準を設けており、これを正しく理解することが認定取得の第一歩となります。
まず、最も重要な必須条件として、scope1,2の合計排出量が1万トン未満であることが求められます。これは企業規模を判断する絶対的な基準となっています。また、海上輸送船や火力発電所などの非再生可能発電資産を保有していないことも条件となります。これらの資産は大きなCO2排出源となるため、たとえ小規模な企業であっても、これらを保有する企業はSBTにおいては「大企業」として扱われます。
さらに、金融機関は投融資を通じて間接的に大きな環境影響を持つため、非金融セクターに属していることも要件の一つです。金融機関に対しては、別途、独自の基準が設けられています。また、大企業の子会社である場合は、親会社を通じてSBT認定を取得する必要があります。
これらの必須条件に加えて、従業員数、売上高、総資産に関する基準も設けられています。従業員250名未満、年間売上高5,000万ユーロ未満(約80億円)、総資産2,500万ユーロ未満(約40億円)という3つの条件のうち、2つ以上を満たす必要があります。
このような企業規模の違いは、目標設定の要件にも大きく影響します。中小企業の場合、scope1,2のみの目標設定でよく、scope3については算定のみで削減目標の設定は任意とされています。一方、大企業はscope1,2,3すべての目標設定が必須となり、特にscope1,2については年率4.2%以上、scope3については年率2.5%以上の削減が求められます。
申請費用にも大きな差があります。中小企業の場合、初回申請が1,250ドル、5年後の目標再設定時には625ドルと、比較的取得しやすい費用設定となっています。対して大企業は初回申請が9,500ドル、目標再設定時が4,750ドルと、かなり高額な費用設定となっています。
気候変動対策が企業経営の重要課題として認識される中、SBT認定取得企業は着実に増加を続けています。2025年2月時点で、世界の認定企業数は7,000社以上に達しており、日本の認定企業数は1,400社以上と、この数字は年々加速度的に伸びています。特に日本企業の動きが活発で、アジアの中でも際立った存在感を示しています。
業界別に見ると、特に建設業界での広がりが顕著です。この背景には、国土交通省による入札制度の変更があります。実際、国交省の工事入札においては、SBT認定取得が加点対象となっており、19点満点中の1点が付与されます。公共工事の受注において1点の価値は非常に大きく、この制度変更が建設業界でのSBT認定取得を加速させる要因となっています。
さらに注目すべきは、この動きが大手ゼネコンだけでなく、その協力会社である中小建設業者にまで広がっていることです。実際にSBTiのウェブサイトで認定企業を検索すると、「建設」というキーワードで多くの中小企業がヒットします。これは、大手建設会社が自社のscopeプ3排出量を削減するために、協力会社にも環境対策を求めているためです。
電機業界も積極的な動きを見せています。この業界は、製品のライフサイクル全体での環境負荷低減が求められることから、早くからサプライチェーン全体での取り組みを進めてきました。部品メーカーや製造委託先を含めた包括的なCO2削減の取り組みが、業界全体でのSBT認定取得につながっています。
製造業においても、特に最終製品メーカーを中心に認定取得が進んでいます。これは、製品の環境性能に対する消費者の関心の高まりや、機関投資家からのESG投資の要請が強まっていることが背景にあります。また、EUを中心とした環境規制の強化も、製造業各社の取り組みを後押ししています。
中小企業の参加も着実に増加しており、日本国内では数百社が認定を取得しています。これは、大企業のサプライチェーン対策の一環として、取引先である中小企業にも取得を促す動きが広がっているためです。また、中小企業向けに認定要件が緩和されていることも、参加増加の要因となっています。
一方で、SBTの要件自体も年々変化しています。2024年2月には中小企業の定義が見直され、従業員数や売上高による基準が追加されました。また、申請手続きも変更され、以前は比較的シンプルだった申請プロセスが、アカウント設定や事前審査など、より厳格な手順を要するようになりました。
このような要件の厳格化は、SBTの信頼性を高める一方で、新規参入のハードルを上げる可能性があります。そのため、SBTiでは中小企業向けの支援プログラムを充実させるなど、バランスの取れた制度運営を目指しています。
今後の展望としては、さらなる認定企業の増加が予想されます。特に、2050年カーボンニュートラルに向けた動きが加速する中、SBTは科学的根拠のある目標設定の枠組みとして、その重要性を増していくでしょう。また、金融機関による投融資判断の材料としても、SBT認定の有無がますます重視されていくと考えられます。
第2回では、SBT取得による具体的なメリットや企業の取り組み事例など、以下の点について詳しく解説していきます。
<コラム:よくある誤解>
「うちは中小企業だから関係ない」
→大手企業のサプライチェーン対策により、取引先の中小企業にもSBT取得が求められるケースが増えています。
「目標設定は自社で自由に決められる」
→科学的根拠に基づく削減率(年率4.2%など)が定められており、それを下回る目標では認定されません。
「スコープ3の算定は困難」
→中小企業の場合、スコープ3は測定のみでOK。削減目標の設定は任意です。*本記事の情報は記事公開時点のものです。制度は随時更新されますので、最新情報はSBTiの公式ウェブサイトでご確認ください。