カーボンニュートラルに取り組む企業が得られる主なメリット
カーボンニュートラルに取り組むことで、企業には一体どんなメリットがあるのでしょうか?詳しく見て行ってみましょう。
企業価値・ブランド評価の向上
カーボンニュートラルへの取り組みは、企業の環境意識や将来対応力を示す指標として評価されます。投資家や金融機関は、気候変動リスクへの対応状況を重視しており、脱炭素への明確な姿勢はESG評価の向上や資金調達面での優位性につながります。また、環境配慮型の企業として認知されることで、顧客や取引先からの信頼獲得、ブランド価値の向上にも寄与します。
競争力強化と取引機会の拡大
公共事業や大企業との取引では、環境対応が入札条件や選定基準に組み込まれるケースが増えています。カーボンニュートラルへの取り組みは、こうした場面での競争力を高め、新たな取引機会の創出につながります。特にサプライチェーン全体での排出削減が求められる中、自社の対応状況を示せることは、取引継続や新規受注において大きな強みとなります。
中長期的なコスト削減と経営リスクの低減
省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの活用は、短期的には投資を伴うものの、中長期的にはエネルギーコストの削減や価格変動リスクの低減につながります。また、将来的な規制強化や炭素価格導入に備える意味でも、早期に対応しておくことは経営の安定化に寄与します。カーボンニュートラルは、コスト増ではなくリスクマネジメントの一環と捉えることが重要です。
人材確保・社内エンゲージメントの向上
環境課題への取り組みは、求職者や従業員からの共感を得やすく、採用力や社内エンゲージメントの向上にもつながります。特に若手人材を中心に、企業の社会的姿勢を重視する傾向は強まっており、カーボンニュートラルへの本気度は企業選択の判断材料になりつつあります。社員が自社の取り組みに誇りを持てることは、組織の一体感や生産性向上にも好影響を与えます。

企業価値評価への影響とは?
SBT認定取得は、企業の評価にも大きな影響を与えます。特に重要性が高まっている点について解説していきます。
CDPスコアへの影響
気候変動に関する情報開示の国際的な評価であるCDPにおいて、SBT認定は重要な評価項目となっています。具体的には以下の通りです。
- 気候変動に対する具体的な目標の有無が問われる
- 自社独自の目標よりも、SBTのような科学的根拠のある目標の方が高く評価される
- パリ協定の1.5度目標との整合性が重視される
投資判断への影響
機関投資家がESG投資の判断材料として注目しています。
- 将来のビジネスリスクへの対応力を示す指標として
- 長期的な企業価値の判断材料として
- サステナブル投資の要件として
コスト削減・経営効率化への影響
エネルギー使用量の最適化による直接的なコスト削減
カーボンニュートラルに取り組む過程では、まず自社のエネルギー使用状況や排出量を可視化します。このプロセスにより、無駄な電力使用や非効率な設備運用が明らかになり、省エネルギー施策につなげやすくなります。設備更新や運用改善を進めることで、電力・燃料コストの削減という直接的な経済効果を得られる点は、大きなメリットです。
エネルギー価格変動リスクの低減とコストの安定化
再生可能エネルギーの導入や調達方法の見直しは、エネルギー価格の変動リスクを抑える効果があります。化石燃料価格の高騰や市場の不安定化に左右されにくくなることで、中長期的なコスト予測が立てやすくなり、経営の安定性が向上します。これは、単年度のコスト削減以上に、経営判断の質を高める要素といえるでしょう。
業務プロセスの見直しによる生産性向上
排出削減を進める中で、業務フローや設備稼働の見直しが進み、結果として生産性向上につながるケースも少なくありません。データを基にした改善活動が定着することで、現場レベルでの無駄削減や効率化が進み、組織全体の業務効率が高まります。カーボンニュートラルは、環境対応と同時に業務改善を促すきっかけとしても機能します。
将来的な規制・コスト増への備え
今後、炭素価格の導入や環境規制の強化が進む中で、何も対策を取らない場合、コスト増に直結するリスクがあります。早期にカーボンニュートラルへの対応を進めることで、こうした将来的な負担を抑え、先回りしたコストコントロールが可能になります。短期的な費用だけでなく、長期視点での経営効率化という観点からも、取り組む価値は高いといえます。
公共事業における競争力強化
最も分かりやすい事例が、国土交通省(以下、国交省)による入札制度の変更です。2023年後半から、国交省の工事入札においてカーボンニュートラルへの取り組みが評価項目として加わりました。具体的には、以下のような形で評価されています。
- 総合評価の加点項目として、カーボンニュートラルへの取り組みが追加
- 19点満点中の1点が付与される
- SBT認定取得企業であることが評価対象の一つ
- 燃費性能の優れた建設機械の使用も評価対象
一見、19点中の1点は小さな違いに思えるかもしれません。しかし、公共工事の入札において1点の価値は非常に大きく、場合によっては受注の成否を分ける重要な要素となります。
実際、この制度変更を受けて、建設業界ではSBT認定取得が急速に広がっています。SBTのウェブサイトで建設業界の認定企業を検索すると、大手ゼネコンから地域の建設会社まで、多くの企業が名を連ねています。
さらに注目すべきは、この動きが地方整備局にも広がっていることです。国交省の発表によれば、2023年5月時点で地方整備局の約半数が同様の評価制度を導入しており、約8兆円規模の公共事業において脱炭素の取り組みが重視されるようになってきています。

SBT認定企業の取り組み事例
サプライチェーンにおける取引継続|ダイワハウスの事例
大手企業がサプライヤーにSBT認定取得を求める動きも、着実に広がっています。その代表的な例として、ダイワハウスの取り組みを詳しく見ていきましょう。
同社のGHG排出量の内訳を見ると、非常に興味深い特徴が浮かび上がります。直接排出であるscope1が6.6%、電力使用による間接排出のscope2が0.2%なのに対し、その他の間接排出であるscope3が実に93.2%を占めているのです。
このscope3の中でも特に大きな割合を占めているのが、購入した製品・サービスによる排出(27.4%)と、販売した製品の使用による排出(44.9%)です。これは住宅メーカーとしての事業特性を如実に表しています。建材の製造から、完成した住宅が使用される数十年の期間まで、広範な環境負荷を考慮しなければならないのです。
このような状況を踏まえ、ダイワハウスは2025年までに「購入先のサプライヤーの90%にSBT目標を設定させる」という意欲的な目標を掲げています。ここで重要なのは、この90%は金額ベースでの割合を指しているという点です。つまり、主要な取引先のほとんどが対象となるのです。
実際、建材業界を見渡すと、YKK APのようなアルミサッシメーカー、AGCや日本板硝子といったガラスメーカー、TOTOに代表される住宅設備機器メーカーなど、主要なサプライヤーの多くがすでにSBT認定を取得しています。これは、サプライチェーン全体での取り組みが着実に進展していることを示しています。
中小企業における具体的事例|大川印刷の取り組み
SBT認定取得は大企業だけのものではありません。横浜市の印刷会社である大川印刷の事例は、中小企業による戦略的な環境対応の好例として注目を集めています。
同社は2018年を基準年として、「2030年までに、売上高が倍増してもCO2排出量を半減する」という、一見すると相反する目標を掲げました。この意欲的な目標に向けて、同社は段階的に取り組みを進めてきました。
まず着手したのが、工場への太陽光パネル設置です。自家消費による再生可能エネルギーの活用を開始し、続いてみんな電力からの再生可能エネルギー100%電力の調達も実現しました。その結果、電力による間接排出(scope2)の実質ゼロ化を達成しています。
こうした取り組みは、事業面でも具体的な成果につながっています。環境省のSDGs関連冊子の印刷を受注したほか、環境配慮型企業としての評価が向上し、新規顧客からの引き合いも増加しています。特筆すべきは、これらの投資が比較的短期間で回収できているという点です。
例えば、認定取得に要した費用(申請費用、コンサルティング費用含む)は約160万円でしたが、年間の省エネ効果として約280万円のコスト削減を実現しています。さらに、環境配慮型企業としての認知度向上により、認定取得後1年間で約2,000万円の売上増加を達成しました。結果として、投資回収期間はわずか8ヶ月程度だったとのことです。
化学産業の事例|花王の取り組み
製造業の取り組みとして、花王の事例も注目に値します。同社はサプライチェーン全体でのCO2削減に取り組んでおり、特にサプライヤーとの協働による取り組みに特徴があります。
花王は独自のESG推進ガイドラインを策定し、サプライヤーとの協力関係を構築しています。このガイドラインでは、CO2排出量の定期報告や削減目標の設定を必須要件としながらも、一方的な要求に終わらないよう、きめ細かなサポート体制を整えています。
例えば、原材料メーカーとの協働では、製品開発の段階から環境負荷低減を考慮しています。生産工程の効率化や包装材の軽量化といった具体的な取り組みを通じて、原材料由来のCO2排出量を2020年比で15%削減することに成功しています。また、包装材の重量も25%削減し、物流効率も30%向上させるなど、着実な成果を上げています。

SBT取得のタイミング
「SBT認定は取得した方がよさそうだが、いつ取得すべきか迷っている」という声もよく聞かれます。この点について、以下のような考え方が参考になるでしょう。
早期取得が推奨される理由
基準年の選択による影響
- 過去のデータほどCO2排出量が多い傾向
- 削減目標の設定がしやすくなる可能性
- ただし、あまりに古いデータは使用できない
競争優位性の確保
- 同業他社との差別化
- 取引先からの要請への即応
- 公共事業入札等での優位性確保
業界特性を踏まえた取り組みの重要性
SBT認定取得へのアプローチは、業界によって大きく異なります。
製造業では製造工程の効率化が重要となり、多くの場合、設備投資の費用対効果が課題となります。これに対しては、段階的な設備更新計画を立てることで、投資負担を平準化することが可能です。
サービス業では、オフィスの省エネが主要なテーマとなりますが、テナントビルに入居している場合は対応が難しいケースもあります。そのような場合は、まず運用面での改善からスタートし、徐々に範囲を広げていく方法が現実的です。
小売業では、多店舗展開における統一的な対応が課題となります。この場合、モデル店舗での実証を行い、成功事例を他店舗に展開していくアプローチが効果的です。
IT業界では、増大するデータセンターの電力需要への対応が重要課題となっています。この分野では、再生可能エネルギーの調達を検討する企業が増えており、新たなビジネスチャンスにもつながっています。
今後の展望と次回予告
SBT認定取得は、もはや環境対策の一環というだけでなく、事業継続のための必須要件となりつつあります。特に2025年に向けて、要件の変更や費用改定の可能性、新たな支援制度の導入なども予想されており、早期の対応が推奨されます。
第3回(最終回)では、SBT取得に向けた具体的な準備と実践的なアプローチについて、さらに詳しく解説します。申請書類の作成方法や目標設定の具体的な計算方法、社内体制の構築方法、データ管理のシステム化など、実務担当者の視点で詳しく説明します。
*本記事の情報は記事公開時点のものです。制度は随時更新されますので、最新情報はSBTiの公式ウェブサイトでご確認ください。
