近年、環境問題において脱炭素経営は注目を集めています。本記事では解説や取り組みの流れ、メリットやデメリットについて詳しく解説していきます。
脱炭素経営とは?企業が知っておきたい基礎知識・メリット・デメリット・導入に向けたポイントを徹底解説

目次
- 脱炭素経営について
- 脱炭素経営の3つの取り組み
- TCFDについて
- SBTについて
- RE100について
- 脱炭素経営へのステップとは
- ステップ①気候リスクとビジネスチャンスの特定
- ステップ②温室効果ガスの排出量を把握する
- ステップ③温室効果ガス削減目標の設定と削減計画の策定
- ステップ④温室効果ガス削減計画の実行
- 脱炭素経営のメリット
- ①経営ビジネスの成長
- ②エネルギーコストの低減
- ③経営サポートの有効活用
- ④市場での認知拡大
- ⑤助成金・補助金の有効活用
- 脱炭素経営のデメリット
- ①導入・維持にコストがかかる
- ②脱炭素化経営の専門人材の確保が困難
- 脱炭素経営の課題と解決策
- ①排出量のデータを集めるのが難しい
- ②社内全体で意識をそろえるのが困難
- ③サプライチェーン全体での協力体制の構築が難しい
- ④制度・基準の変化に対応しづらい
- ⑤中小企業のリソースが足りない
- まとめ
脱炭素経営について
脱炭素経営とは、企業がCO2排出を抑えながら事業を展開する経営の考え方です。再生可能エネルギーの導入や省エネの工夫、サプライチェーン全体での取り組みなどが含まれます。
気候変動への対応が求められる今、環境への配慮はもちろん、企業の信頼性向上やESG投資の対象になるなど、ビジネス面でも大きなメリットがあります。持続可能な成長を目指すうえで、欠かせない視点といえるでしょう。
脱炭素経営の3つの取り組み
脱炭素経営について、実際にはどのような取り組みをしているのか、主な3つの要素についてご紹介していきます。
TCFDについて
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が気候変動によるリスクやチャンスをどのように考え、対策しているかを投資家などに分かりやすく伝えるための仕組みです。金融の専門機関が作ったもので、「経営の方針」「戦略」「リスクの管理」「目標」の4つのポイントに分けて情報を公開することを求めています。
現在日本においても多くの上場企業が対応しているTCFDは、2024年に解散し今後はその仕組みを踏襲するISSB(IFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会)、国内ではSSBJ(日本版サステナビリティ開示基準)への対応が求められることになります。
企業にとっては、環境問題にしっかり取り組んでいることをアピールし、信頼を高めるチャンスにもなります。
SBTについて
SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定の目標に沿って企業が科学的根拠に基づき設定するCO2削減目標のことです。SBTイニシアチブ(SBTi)が認定し、「1.5℃目標」や「2℃未満目標」に合わせた削減計画が求められます。
企業にとっては、脱炭素経営を進めるうえで国際的な基準を満たす指標となり、企業価値やブランド力の向上につながる重要な取り組みです。
参照元:第1部 SBTの概要(環境省)
RE100について
RE100は、事業で使う電力を100%再生可能エネルギーに切り替えることを目指す企業の国際的なイニシアチブ(共同宣言)です。世界の大手企業が参加し、風力や太陽光などのクリーンエネルギーの活用を進めています。
環境負荷を減らし、気候変動対策に貢献するとともに、企業ブランドの向上やコスト削減にもつながります。持続可能な社会の実現に向け、注目されている取り組みの一つです。
脱炭素経営へのステップとは
脱炭素経営を進めるには、どのようなステップが必要となるかを解説していきます。
ステップ①気候リスクとビジネスチャンスの特定
まずは、自社のビジネスが気候変動によってどんな影響を受けるのかを把握することが大切です。たとえば、異常気象が原因で原材料の調達が難しくなったり、物流コストが上がったりするリスクが考えられます。
一方で、省エネ技術や再生可能エネルギーを活用することで、新しい市場やビジネスチャンスを生み出せる可能性もあります。TCFDの考え方を参考にしながら、自社にとってのリスクとチャンスをしっかり分析し、経営戦略に活かしていくことが重要です。
ステップ②温室効果ガスの排出量を把握する
脱炭素経営を進めるには、現状どれくらいのCO2を排出しているのかを正確に知る必要があります。排出量は以下3つに分けられます。
- Scope1:自社の工場や設備から出るもの
- Scope2:購入した電気によるもの
- Scope3:仕入れや物流、製品の使用・廃棄まで含めたもの
参照元:知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは(経済産業省 資源エネルギー庁)
特にScope3はサプライチェーン全体が関係するため、取引先とも連携してデータを集めることが大事です。自社の排出状況を可視化することで、どこに改善の余地があるのかを明確にできます。
ステップ③温室効果ガス削減目標の設定と削減計画の策定
排出量が分かったら、「どれくらい削減するのか」「どの方法で減らすのか」を決めていきます。たとえば、「2030年までにCO2を50%減らす」など、短期・中期・長期の目標を設定するのが一般的です。
SBTのような国際的な基準に沿って目標を立てると、投資家や取引先からの信頼も得やすくなります。その上で、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーへの切り替え、サプライチェーンの見直しなど、具体的なアクションプランを作成していきます。
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|①SBTの基礎と企業価値への影響(デジタルグリッド株式会社)
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|②SBT取得のメリットと具体的事例(デジタルグリッド株式会社)
参考記事:取引先から求められる前に知っておきたい! SBT完全ガイド|③SBT取得への実践的アプローチ(デジタルグリッド株式会社)
ステップ④温室効果ガス削減計画の実行
計画を立てたら、いよいよ実行です。LED照明の導入や設備の省エネ化、再生可能エネルギーの活用、廃棄物の削減など、できることから始めます。また、従業員への環境教育を行ったり、取引先と協力してサプライチェーン全体で脱炭素を進めたりすることも重要です。
定期的に進捗をチェックし、必要に応じて計画を見直しながら、目標達成を目指します。さらに、成果をレポートなどで公表することで、競争力の向上と市場での優位性確保にもつながります。

脱炭素経営のメリット
脱炭素経営を取り入れることは、サステナビリティを重視した事業運営を実現し、持続可能な環境の保全に貢献する重要な取り組みです。脱炭素経営がもたらす5つのメリットについて詳しくご紹介いたします。
①経営ビジネスの成長
グローバルに事業を展開する大企業では、脱炭素への関心が特に高まっています。脱炭素経営を進めることで、環境対策を重視するほかの企業や関係者からも評価され、ビジネスチャンスを得られる可能性もあります。環境意識の高い企業としての評価が高まり、持続可能な経営の実現にも寄与するでしょう。
②エネルギーコストの低減
脱炭素経営を進める中で、環境負荷の少ない設備を導入すると、エネルギー消費を抑えられ、結果的にコスト削減につながります。その分、運用コストや維持費の負担も軽くなり、設備をより効率的に活用できるようになります。
環境対策だけでなく、経済的なメリットも得られるため、持続可能な経営の実現に向けた有効な手段といえます。
③経営サポートの有効活用
近年、金融機関において脱炭素経営への取り組みが融資判断の重要な要素となっています。環境負荷の低減に努める企業は、ESG投資やサステナブルファイナンスの観点から評価され、優遇条件での資金調達が可能になる場合があります。
そのため、脱炭素経営を推進することは、企業の信頼向上だけでなく、資金調達の面でも大きなメリットをもたらします。
④市場での認知拡大
脱炭素経営を推進することで、企業の環境意識の高さが市場で評価され、ブランド価値の向上につながります。特に、環境配慮を重視する消費者や取引先、優秀な人材の関心を引きやすく、競争優位性を確立しやすくなります。
企業が脱炭素経営を推進することで、他社も同様の施策を取り入れる動きが広がります。特に、業界のリーディングカンパニーの取り組みは影響力が大きく、業界基準となるケースもあります。
⑤助成金・補助金の有効活用
脱炭素経営を推進する企業を対象に政府はさまざまな補助金や支援制度を用意しています。脱炭素経営をしていく中でどうしてもコストがかかる点は避けられない問題になるので、助成金・補助金を活用できるのは大きなメリットの1つともいえます。
脱炭素経営のデメリット
脱炭素経営を始める際のデメリットについても解説していきます。
①導入・維持にコストがかかる
脱炭素経営を進めるためには、最新の設備導入が必要となるため、大規模な初期投資がかかり、企業にとって大きな負担となる場合があります。しかし、補助金や優遇税制を活用することで、コストの一部を軽減することが可能です。
確かに短期的には大きな支出となりますが、長期的に見るとエネルギーコスト削減や企業価値向上につながるため、戦略的な投資として検討することが重要です。
②脱炭素化経営の専門人材の確保が困難
脱炭素経営に取り組んでいる企業はまだ多くなく、専門知識を持つ人材も不足しているのが現状です。そのため、専門家の意見を取り入れながら進めることや、社内で人材を育成していくことが大切です。
人材育成には時間がかかりますが、将来的には後継者不足の解消にもつながるため、長期的な視点で計画的に進めていくことで得られる恩恵は計り知れません。
脱炭素経営の課題と解決策
脱炭素経営を進めようとしても、現場で思うように進まなかったり、何から着手すればよいか迷う企業も少なくありません。
脱炭素経営における代表的な課題は、次の通りです。
脱炭素経営における代表的な課題
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それぞれの課題とそれらに対する解決策を詳しくみていきましょう。
①排出量のデータを集めるのが難しい
脱炭素経営を進めるとき、最初の大きな壁となるのが「データの収集」です。
自社で使用する電力や燃料に関するScope1・2のデータは比較的収集しやすい一方で、取引先の活動や物流、製品の使用・廃棄まで含むScope3の算定は非常に複雑です。部門や取引先ごとにデータの形式が異なり、請求書や会計システムから必要な情報を抽出するだけでも膨大な手間がかかります。
この課題を解決する方法として、近年注目されているのが「炭素会計」です。炭素会計とは、日々の購買や請求データをもとに排出量を自動算定できる仕組みを取り入れることで、従来の手作業や推定に依存する方法から脱却することが可能です。
ただし、より精度を高めるにはサプライヤーとの連携やデータの基準統一が欠かせません。信頼できるデータを継続的に集めるためには、社内外の協力体制を整え、業務のデジタル化を進めることが重要なカギといえるでしょう。
②社内全体で意識をそろえるのが困難
脱炭素経営を成功させるには、経営層だけでなく現場の社員も含めた社内全体の意識を統一することが欠かせません。しかし、実際のところは、環境対策にコストがかかったり、自分の仕事とは関係ないと考えたりする従業員も多く、脱炭素に向けた取り組みが組織全体に浸透しにくいのが現状です。
特に中小企業では、人手不足で環境担当者が他業務と兼任しているケースも多く、日々の業務の中で脱炭素の取り組みが後回しになりがちです。そのため、方針を示しても具体的な行動に結びつかず、成果が見えにくくなるケースが多くみられます。
この課題を解決するためには、経営層が明確な方針と目的を示すことが重要です。そのうえで、勉強会や社内報などを通じて「なぜ脱炭素が必要なのか」「それが企業にどのような利益をもたらすのか」をわかりやすく伝えましょう。成果を数値や実例として社内で共有すれば、社員の理解と協力を得やすくなり、組織全体が前向きに取り組む風土が育ちます。
③サプライチェーン全体での協力体制の構築が難しい
脱炭素経営は、自社だけの取り組みでは限界があり、取引先や協力会社などサプライチェーン全体での連携が欠かせません。
ところが、実際は、企業ごとに温室効果ガスの算定方法や報告基準が異なるため、排出量データを正確に突き合わせたり、共通の削減目標を設定することが困難とされています。
特に中小企業では、専門知識や人材が不足しており、大手企業からの排出削減要請に対応しきれないケースも多く見られます。その結果、サプライチェーン全体の脱炭素化が足踏みし、全体の排出削減効果が限定的になってしまうこともあります。
こうした課題を乗り越えるためには、取引先と共通のルールやデータ形式を定め、定期的に情報を共有できる仕組みを整えることが重要です。また、経済産業省が推進する「中小企業等脱炭素化支援事業」などの制度を活用すれば、専門家の助言や補助金を得ながら、協働体制を構築しやすくなります。
サプライチェーン全体で同じ方向を向いて取り組むことができれば、企業の信頼性や競争力の向上にもつながり、持続的な脱炭素経営の実現に近づくでしょう。
④制度・基準の変化に対応しづらい
脱炭素経営を進めるうえで、多くの企業が課題として挙げるのが「制度や基準の変化への対応」です。近年、国際的な開示基準や国内の制度改正が相次いでおり、それぞれに対応するための体制整備が求められています。
たとえば、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)や日本版サステナビリティ開示基準審議会(SSBJ)による新たな開示基準の策定が進んでおり、企業は自社の情報開示体制を見直す必要があります。
さらに、政府もGX推進戦略のもとで、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた制度整備を加速しており、関連する法規制や支援制度の内容も年々変化し続けています。
しかし、制度改定のスピードが速いため、「いつまでのタイミングでどの基準に対応すべきか」を正確に把握できない企業も多く、特に中小企業では、情報収集や準備が後手に回ってしまうケースも少なくありません。
こうした課題を解決するには、業界団体や行政機関、専門メディアなどから最新情報を定期的に収集し、外部の専門家やコンサルタントと連携して対応方針を整理することが大切です。社内にサステナビリティ担当を設けるなど、変化に柔軟に対応できる体制づくりが脱炭素経営を持続させる重要なポイントとなるでしょう。
⑤中小企業のリソースが足りない
中小企業が脱炭素経営を進める際、最も大きな課題となるのが「リソースの不足」です。
日本政策金融公庫が実施した「中小企業の脱炭素への取り組みに関する調査」によると、脱炭素に向けた取り組みの課題として、「コストが増える(23.0%)」「手間がかかる(15.0%)」「資金不足(14.1%)」が主な理由として挙げられています。
また、事業規模が大きい企業ほど脱炭素への取り組み率が高く、資金や人材の確保が難しい中小企業ほど対応が遅れがちな傾向も明らかになっています。
こうした状況を打開するには、はじめから完璧を目指すのではなく、「できることから着実に取り組む」姿勢が重要です。
たとえば、照明のLED化や使用電力の可視化など、小さな改善から取り組むことで効果を実感しやすくなります。さらに、国や自治体の補助金・優遇制度を活用したり、業界団体・専門機関と連携して外部のノウハウを取り入れたりすることで、限られたリソースのなかでも着実に脱炭素経営を進められるでしょう。
まとめ
脱炭素経営は世界的に注目されており、日本でもグローバル企業を中心に取り組みが進んでいます。しかし、実施にはコストがかかるうえ、専門的な知識も求められるため、すぐに大きな変革をするのは難しいかもしれません。
だからこそ、できることから少しずつ始めることが大切です。未来のために、今できる取り組みを進め、持続可能な社会の実現を目指していきましょう。



