CDPとは?
CDPは、世界で影響力を持つ環境イニシアティブの一つです。「イニシアティブって何?」と思われた方、心配いりません。簡単に言えば、「環境のために世界中の企業に働きかけを行う取り組み」です。
もともとは「Carbon Disclosure Project(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)」という少し長い名前でした。これを分類すると
- Carbon(炭素・CO2)
- Disclosure(情報公開)
- Project(プロジェクト)
つまり、「企業のCO2に関する情報を公開してもらうプロジェクト」というわけです。今では略してCDPという名称に変わっています。イギリスで始まったこの取り組みは、今や世界中の企業が参加する大きな仕組みになっています。
CDPは具体的に何をしているのか?
CDPの主な活動は、世界中の大企業に対して「環境に関するアンケート」を送ることです。でも、みなさんが普段目にするような簡単なアンケートとは全く違います。なんと約100問もの専門的な質問があり、企業はそれぞれについて詳しく答えなければいけません。
「100問も!?」と驚かれた方もいるかもしれません。でも、これには重要な理由があります。それについては、次のセクションで詳しく説明していきます。
なぜCDPは必要なのか
投資の世界が大きく変わってきている
以前は投資家が企業に投資するかどうかを決める時は、主に「お金の情報」(財務情報)を見ていました。
例えば
- 売上はどのくらいか
- 利益はどれだけ出ているか
- 借金はどのくらいあるか
でも、最近は違います。「お金以外の情報」も、とても重要になってきています。特に、企業が環境のためにどんな取り組みをしているか、という点に注目が集まっています。
なぜ環境の取り組みが重要になったの?
ここで、ちょっと考えてみましょう。例えば、ある会社が石油をたくさん使う商品を作って利益を上げているとします。今はうまくいっているかもしれません。でも、世界中で「CO2を減らそう!」という動きが強まる中、この会社の未来はどうなるでしょうか?
投資家が知りたいのは
「その会社は将来の環境規制に対応できるのか?」
「環境に優しい事業に転換するためのお金はあるのか?」
「転換できない場合、会社は存続できるのか?」
こういった疑問に答えるために、CDPのような仕組みが必要になったわけです。
具体的なCDPの質問内容
実際の質問は、とても幅広い内容をカバーしています。
基本的な質問
- 年間のCO2排出量は?
- それはどこから排出されているのか?(工場?オフィス?運送?など)
- 去年と比べて増えたのか?減ったのか?
より詳しい質問
- CO2を減らすための具体的な計画は?
- その計画にはどのくらいお金がかかるのか?
- 従業員への環境教育はしているのか?
- 環境に関する目標は達成できそうか?
さらに専門的な質問
- 気候変動による事業リスクは把握しているのか?
- 環境技術への投資状況は?
- サプライチェーン全体での環境への影響は?
このように、具体的な数値や取り組み内容、その根拠などが、詳細な設問として設定されています。
CDPの評価の仕組み
CDPは企業の回答を評価して、成績をつけます。まるで学校の成績表のようですね。評価は以下の8段階です。
トップクラス
- A:素晴らしい取り組みをしている企業
- A-:Aにわずかに届かない企業
中間層
- B:しっかりと取り組んでいる企業
- B-:もう少し努力が必要な企業
- C:基本的な取り組みはできている企業
- C-:取り組みが始まったばかりの企業
要改善
- D:取り組みが不十分な企業
- D-:最低限の取り組みも不足している企業
特別な評価
- F:回答していない企業(不参加)
評価はどう使われるのか?
この評価は株価を見るWEBサイトでも表示されるようになっています。例えばGoogleで株価を調べると、その会社のCDPスコアも見ることができます。
これは、投資家にとってとても便利な仕組みです。例えば、同じような事業をしている2つの会社があったとして
- A社:CDPスコア“A”
- B社:CDPスコア“D”
どちらに投資したいと思いますか?多くの投資家は、環境への取り組みがしっかりしているA社の方に高い将来性を感じるでしょう。
評価の特徴と気をつけるポイント
ここで重要なポイントがあります。CDPの評価は「相対評価」であることです。どういうことかというと、
去年と同じことをやっても、同じ評価にはならない
- 世界全体の環境への取り組みレベルは毎年上がっている(「現状維持」は実質的な「後退」とみなされる)
評価は上下する
- 良い評価を維持するには、継続的な改善が必要
- 新しい環境技術や取り組みへの投資も重要
業界による違いもある
- 製造業と金融業では、求められる取り組みが異なる
- それぞれの業界の特性に応じた評価がされる
このように実態に即すことを意識した評価をするという特徴があります。

CDPへの参加について
参加は義務?それとも任意?
CDPへの参加は完全な任意です。でも、世界中の多くの企業が参加しています。なぜでしょうか?
参加理由
- 投資家からの期待が大きい
- 環境への取り組みをアピールできる
- 他社と比較した自社の位置づけが分かる
- 国際的な評価を得られる
- 環境戦略の改善のヒントが得られる
2023年の日本からの参加企業数は1,244社*。これは世界でもトップクラスの参加数です。
参加するとお金はかかるのか?
CDPへの参加には費用がかかります。
- 基本的な回答でも年間約40万円
- より詳しいサービスを受けると更に高額になる
「けっこう高いな」と思われるかもしれません。でも、企業にとっては
- 環境への取り組みを世界にアピールできる
- 投資家からの信頼を得られる
- 自社の環境戦略を見直すきっかけになる
といったメリットがあるため、必要な投資であると多くの企業からは考えられています。
CDPの最新動向
2024年からの大きな変化
CDPは常に進化しています。2024年からは、これまで別々だった質問項目が一つにまとまり、これまでは気候変動分野だけに回答していた企業も自然分野への回答も求められるようになりました。
以前の3つの質問書
- 気候変動について
- 水資源の使用について
- 森林への影響について
新しく追加された項目
- プラスチックの使用と削減
- 生物多様性への配慮
これは、環境問題を「つながりのある一つの大きな課題」として捉える考え方を反映したものです。
企業の年間スケジュール
CDPへの参加は、企業にとって1年がかりの大きなプロジェクトです。
春(3-4月頃)
- 質問書の受け取り
- 社内での体制づくり
- データ収集の開始
夏(7-9月頃)
- 回答の作成
- 社内での確認
- 提出
冬(2月頃)
- 評価結果の発表
- 次年度に向けた改善点の検討
このサイクルを毎年繰り返しながら、企業は環境への取り組みを改善していきます。詳細なスケジュールは毎年変わり、CDPのWEBサイトで確認できます。
CDPの情報はどこで見られるのか?
企業のCDPスコアは誰でも確認することができます
CDPのWEBサイトで
- 企業名で検索可能
- 過去の評価も見られる
- 詳しい回答内容も確認できる
金融情報サイトで
- 株価と一緒にCDPスコアを表示
- 簡単に多くの企業を比較できる
最後に|なぜCDPは重要なのか
CDPは、世界中の企業の環境への取り組みを「見える化」する重要な仕組みです。私たちの生活に直接関係があるように見えないかもしれません。でも、
- 投資や年金の運用先を選ぶ時の判断材料になる
- お仕事を探す時の会社選びの参考にする
- 環境に優しい企業を応援する方法となる
など、実は私たちの暮らしにも関係があります。
これからますます環境への関心が高まると考えられる中で、CDPの重要性は更に増していくでしょう。企業にとっても、私たち一人一人にとっても、CDPは持続可能な社会を作るための大切な道具の一つなのです。
「環境に優しい企業を応援したい」「将来の地球のために何かしたい」。そんな時に、CDPのスコアを参考にしてみるのかも良いかもしれませんね。