「CO2を削減しようにも、まず何をどう測ればよいのか分からない」
こんな悩みを持っている企業も、少なくないのではないでしょうか?世界中で環境や社会への意識が高まったことで、企業に求められる役割も刻一刻と変化しています。
本記事から3本立てで、CO2削減の第一歩であるCO2の見える化のものさしであるGHGプロトコルについて、わかりやすく解説します。

「CO2を削減しようにも、まず何をどう測ればよいのか分からない」
こんな悩みを持っている企業も、少なくないのではないでしょうか?世界中で環境や社会への意識が高まったことで、企業に求められる役割も刻一刻と変化しています。
本記事から3本立てで、CO2削減の第一歩であるCO2の見える化のものさしであるGHGプロトコルについて、わかりやすく解説します。
「うちの会社でもCO2排出量を測らなきゃいけないの?」
もしあなたがこう思っているなら、その答えはおそらく「はい」です。なぜなら、CO2排出量の「見える化」は、もはや大企業だけの課題ではなくなってきているからです。
でも、なぜCO2を測る必要があるのでしょうか?簡単に言えば、こんな理由があります。

デジタル化やDXが進む昨今、「データで見えないものは管理できない」という言葉を耳にすることもあります。CO2も同じです。まずは測って「見える化」しないと、削減のしようがありません。
でも、CO2排出量を測るといっても、「どうやって測ればいいの?」という疑問が湧きますよね。実は、CO2の測り方がバラバラだと正確な比較ができません。A社とB社が別々の方法でCO2を測っていたら、どちらが環境に優しいか判断できないのです。
そこで登場するのが「GHGプロトコル」です。
GHGプロトコル(温室効果ガスプロトコル)は、企業や組織が温室効果ガス(主にCO2)の排出量を計算するための国際的な標準ルールです。
簡単に言えば、「CO2を測るものさし」です。「GHG」とは「Greenhouse Gas(温室効果ガス)」の略称です。CO2だけでなく、メタンや一酸化二窒素などの温室効果ガス全般を含みますが、本記事ではわかりやすさのためにCO2と表現しています。
CO2排出量は測り方がバラバラだと正確な比較ができません。
たとえば、取引先から「御社のCO2排出量を教えてください」と突然言われて、社内でいろいろ調べてみると、部署によって計算方法がバラバラで、統一した数字を出せないという状況にもなりかねません。こういった混乱を避けるためにも、共通のルールが必要になります。

GHGプロトコルは、世界中の企業がCO2排出量を同じルールで計算できるようにするための「共通言語」です。法律で強制されているわけではありませんが、世界中で最も広く使われている標準的な方法として定着しています。
GHGプロトコルでは、CO2排出量を「Scope1」「Scope2」「Scope3」という3つのグループに分けています。これは、排出源の種類と企業の責任範囲を明確にするためです。
ゴミに例えると「自分の家から直接出るゴミ=Scope1」「電気を使うことで発電所から出るゴミ=Scope2」「自分が購入した製品が、製造されて自分の手元に届くまでに出たゴミ=Scope3」というように分けて考えるようなものです。
この3つのScope、最初は少し複雑に感じるかもしれませんが、実例を交えながら違いを確認していきましょう。
Scope1は、企業が直接排出するCO2のことです。言い換えれば、自社の敷地内で化石燃料を燃やすことで発生するCO2です。
これらは企業が直接コントロールできる排出源なので、最も基本的な排出量と言えます。たとえば、省エネボイラーに替えたり、社有車をハイブリッドカーに替えたりすれば、直接削減できます。
Scope2は、企業が購入した電気や熱(蒸気など)を作るときに発生したCO2のことです。
これらは自社の敷地内からは直接CO2が出ていませんが、電気を使えば使うほど、電力会社の発電所で石炭や天然ガスが燃やされ、CO2が排出されることになります。
たとえば、工場の機械を動かすために電気を使うとき、機械自体からはCO2は出ませんが、その電気を作るために発電所では石炭などが燃やされています。つまり、間接的にCO2排出の原因となっているわけです。
コンビナート地域などでは、自社のタービンを回すために隣の工場で作られた蒸気をパイプラインで受け取るようなケースもあります。このように購入した熱エネルギーもScope2に含まれます。
Scope3は、上記以外のすべての間接的なCO2排出のことで、企業のバリューチェーン全体に関わる排出量です。実は、多くの企業にとって、最も量が多いのがこのScope3です。
GHGプロトコルでは、Scope3をさらに15のカテゴリーに分けています。範囲が広いため、データ収集や計算が最も難しい部分です。
たとえば、自動車メーカーの場合、トヨタ自動車の例では、Scope3の排出量が全体の98%以上を占めています。特に「販売した製品の使用」(カテゴリー11)、つまり販売した車が走行中に排出するCO2が最も多くなっています。トヨタの場合、Scope3の中でも「販売した製品の使用」が圧倒的に多く、次いで「購入した物品とサービス」(カテゴリー1)が多いです。
GHGプロトコルでは、CO2排出量を正確に測るための5つの基本原則を定めています。これらは「測定の品質」を確保するための重要なルールです。
1. 妥当性(Relevance)
「目的に合った測り方をしているか?」という原則です。
自社の事業活動とCO2排出の関係を適切に反映した測定方法を選ぶということです。たとえば、自社工場内の電力使用を測る際、他社に貸しているスペースの電力は含めるべきか除外すべきかなど、境界を適切に定義する必要があります。
2. 完全性(Completeness)
「必要なものをすべて測っているか?」という原則です。
関連するすべての排出源を含める必要があります。たとえば、複数の事業所や子会社がある場合、一部だけではなくすべての排出源を対象にする必要があります。ただし、完全に網羅するのが難しい場合は、重要度の高いものから優先的に取り組むアプローチも認められています。
3. 一貫性(Consistency)
「毎回同じ方法で測っているか?」という原則です。
年度ごとに測定方法を変えると正確な比較ができません。たとえば、ある年は「出資比率に応じた排出量」を計算し、翌年は「取引関係に基づく排出量」に変更すると、CO2排出量が突然減ったように見えるかもしれませんが、それは実際の削減ではなく単なる計算方法の変更によるものです。
4. 透明性(Transparency)
「測り方を明確に説明できるか?」という原則です。
どのようなデータをどのように計算したかを明確にする必要があります。投資家や取引先などの第三者が、その排出量データの信頼性を確認できるように、計算方法や前提条件を開示することが重要です。
5. 正確性(Accuracy)
「できるだけ正確に測っているか?」という原則です。
たとえば、電力の排出係数(1kWhあたりのCO2排出量)は毎年更新されるため、常に最新のデータを使用しなければなりません。古い係数を使い続けると、実際の削減効果が反映されなくなります。
これらの5つの原則を意識することで、より信頼性の高いCO2排出量データを算定できます。
CO2排出量を正確に把握するためには、排出源の種類ごとに適切な算定手法を選ぶことが欠かせません。
GHGプロトコルでは、企業活動を次の3つに分類し、それぞれに異なる計算方法を定めています。
Scope1:自社の事業活動で直接排出されるCO2 Scope2:購入した電力・熱・蒸気などの使用によって間接的に排出されるCO2 Scope3:上記以外のバリューチェーン全体に関わる間接的に排出されるCO2 |
ここでは、それぞれのScope別の算定アプローチを詳しくみていきましょう。
Scope1(スコープ1)とは、企業が自社の事業活動の中で直接排出するCO2のことです。たとえば、工場やオフィスで燃料を燃やすとき、社用車を走らせるときなど、自社が燃料を使用することで生じるCO2の排出量が、Scope1に該当します。
Scope1の排出量は、使用した燃料の量に「排出係数(燃料1単位あたりに排出されるCO2量)」を掛けて算定します。Scope1は、直接的な燃料使用量に対して排出係数を掛けて計算します。Scope1の算定は、比較的シンプルなのが特徴です。
灯油を使用した場合を例にみていきましょう。
環境省が公表する排出係数では、灯油1キロリットルあたりおよそ2.5トンのCO2を排出します。
したがって、灯油を100リットル(=0.1キロリットル)使用した場合は、「2.5 × 0.1 = 0.25トン」のCO2排出量となります。
灯油以外にも、それぞれの燃料には排出係数が定められており、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)などでも公表されています。
たとえば:
といったかたちです。
引用元:温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver6.0) (令和7年3月) 第Ⅱ編 温室効果ガス排出量の算定方法(環境省)
Scope2は、企業が購入して使用する電力や熱などの利用に伴って発生する**間接的な排出**を対象としています。
Scope1が「自社から直接出る排出」とする場合、Scope2は「他社が供給するエネルギーの使用による排出」を測るイメージです。
Scope2の算定では、使用した電力や熱の量に「排出係数(1kWhあたりのCO2排出量)」を掛け合わせて求めます。
以下のケースをもとに、Scope2の算出方法をみていきましょう。
計算式は次のとおりです。
100,000×0.39÷1,000=39トンのCO2排出量
このように、Scope2の算定は「電力使用量」と「排出係数」を掛け合わせるだけのシンプルな計算で求められます。
ただし、排出係数は電力会社や契約メニューなどによって異なり、毎年見直されるため、最新の公表データを参考にしなければなりません。環境省や経済産業省から公表される最新の係数を使用してください。
Scope3は、企業の活動に関わる取引先やお客様など、社外で発生するCO2排出をまとめたものです。自社の事業に関係する一連の流れ(=バリューチェーン)全体を対象としているため、自社で直接コントロールできない部分が多く、Scope1やScope2に比べて算定が複雑で手間がかかるのが特徴です。
Scope3は最も複雑で、15のカテゴリーごとに異なる算定方法があります。環境省が定めるデフォルト値を使用することが一般的です。
たとえば、カテゴリー1(購入した製品・サービス)のケースをみていきましょう。
このように、金額ベースの算定方法は比較的手軽に導入できる一方で、実際のサプライヤーが行っている削減努力や省エネ施策を手軽に反映できない点が大きな課題といえます。
より正確なデータを得るためには、可能な範囲で取引先から実際の排出量データを収集し、実測値ベースでの算定に切り替えていくことが理想的です。
カーボンニュートラルの取り組みを進めるうえで欠かせないのが、正確なデータの把握と、それを継続的に管理できる体制づくりです。CO2排出量の算定は一度きりの作業ではなく、毎年の改善や情報開示の基礎となる重要なプロセスであることを理解しておく必要があります。
ここでは、それぞれのScopeのデータ収集に必要な情報と、スムーズにデータ収集するための社内体制づくりのポイントを詳しくみていきましょう。
Scope1・Scope2・Scope3のそれぞれの排出量を正確に算定するためには、必要となるデータの種類を整理し、計画的に収集することが大切です。
Scope1・Scope2は、主に自社の管理範囲内で把握できるデータが中心となるため、Scope3に比べて比較的データを収集しやすいのが特徴です。
どちらのScopeも請求書や使用記録など、日常業務で既に保管している資料からデータを取り出せるケースが多く、初めて算定に取り組む企業でも着手しやすい範囲といえるでしょう。
Scope1では、燃料を使用してボイラーや発電機を稼働させたり、社用車を走行させたりした際の燃焼による排出が該当します。
具体的には、以下のデータが必要です。
Scope1の算定で必要なデータ
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Scope1の算定では、これらの使用量に環境省が定める排出係数を掛け合わせることでCO2排出量を求めます。比較的シンプルに算定できる一方で、請求書と実際の使用量に差異が生じないよう、データの記録方法を統一しておくことが重要です。
Scope2は、オフィスの照明や空調、生産ラインの設備などで使用する電気の背後では、発電所で化石燃料が燃焼しており、その分の排出を自社の利用分として算定しなければなりません。
具体的には、以下のデータが必要です。
Scope2算定で必要なデータ
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これらのデータをもとに、「使用量×電力会社の排出係数」という式でCO2排出量を算出します。なお、排出係数は電力会社や契約メニューによって異なり、毎年更新されるため、環境省や経済産業省が公表する最新データを参照しなければなりません。
Scope3の排出量を算出するためには、社内で完結するデータだけでなく、社外からの情報収集が欠かせません。対象範囲が広く、15のカテゴリーに分かれているため、まずは自社にとって排出量の多い分野(=ホットスポット)を特定し、優先的にデータを集めることがポイントです。
主に必要となるデータの例は以下の通りです。
Scope3の算定で必要なデータ
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Scope3の算定では、環境省が公表する産業連関表データベース(排出原単位)を活用した金額ベースの試算がよく使われます。しかし、より精度の高い算定を行うには、取引先から実際の排出データを提供してもらい、実測値ベースでの評価へと切り替えていく必要があるでしょう。
効果的なCO2排出量算定のためには、部門間の連携が不可欠です。
CO2排出量の「見える化」は、環境対応の第一歩です。GHGプロトコルを理解し、自社のCO2排出量を測定することで、次のようなメリットが得られます。
CO2排出量の算定は難しそうに思えるかもしれませんが、最初からすべてを完璧にする必要はありません。まずはScope1と2の排出量から始め、少しずつ範囲を広げていくことをお勧めします。
たとえば、具体的な第一歩としては、
「百聞は一見にしかず」という言葉通り、実際に測ってみることで多くの気づきが得られます。「うちはあまりCO2を出していないはず」と思っていても、実際に測ってみると意外な排出源が見つかるかもしれません。
次回は、実際にどうやって自社のCO2排出量を測るか、その具体的な方法を実例を交えてお伝えします。