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スポーツ業界のカーボンニュートラル最前線|今知っておきたい国内外の先進事例と実践アクション

スポーツ業界のカーボンニュートラル最前線|今知っておきたい国内外の先進事例と実践アクション

みなさんは、サッカーやバスケットボールの試合を観戦したことがありますか?会場に行くと、たくさんの人が集まり、熱い応援や美味しい食べ物、グッズ販売などでとても賑やかですよね。でも、その裏側で、会場およびそこまでの移動において電気や燃料が消費され、ゴミなどが発生していることはご存知でしょうか。

「スポーツイベントが地球温暖化と関係あるの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。実は、スポーツ業界も「カーボンニュートラル」、つまり温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするための取り組みを始めています。この記事では、スポーツ業界がどのようにカーボンニュートラルを目指しているのか、具体的な事例を交えながら、みなさんと一緒に考えていきます。

目次

カーボンニュートラルとは? まずは基本から

まず、「カーボンニュートラル」という言葉の意味を確認しましょう。カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(主に二酸化炭素やメタン、窒素酸化物など)の排出量が実質ゼロである状態を指します。ここでの「実質ゼロ」とは、人間の活動によって排出された温室効果ガスと、森林などによる吸収量を差し引いてゼロにすることです。つまり、排出した分だけ吸収や削減の工夫をして、地球全体でバランスをとる考え方です。

たとえば、スポーツイベントで排出された二酸化炭素(CO₂)を、植林活動や再生可能エネルギーの利用で埋め合わせる、といった方法がカーボンニュートラルの代表例です。

関連記事:カーボンニュートラルとは?その基礎から取り組み内容まで詳しく紹介・解説します

スポーツ業界が直面する環境課題

スポーツ業界がカーボンニュートラルを目指す理由は、地球温暖化や気候変動の影響がスポーツそのものに大きく関わっているからです。たとえば、夏の猛暑で選手や観客が熱中症になるリスクが高まったり、大雨や台風で試合が中止になることもあります。ウィンタースポーツにおいても温暖化の影響による雪不足で大会が中止される事例が増えています。

また、スポーツイベントでは次のような環境課題が発生します。

会場の照明や空調などで大量の電気を使う

観客や選手の移動による交通機関のCO₂排出

食べ物や飲み物の容器などのゴミが大量に出る

新しいスタジアム建設による土地開発や生態系への影響

こうした課題に対して、スポーツ業界はどのようにカーボンニュートラルを目指しているのでしょうか。

カーボンニュートラルに向けたスポーツ業界の取り組み

J リーグのSports Positive League(スポーツ・ポジティブ・リーグ)への参画

世界のスポーツクラブがカーボンニュートラルを競い合うユニークな取り組みが「Sports Positive League(SPL)」です。SPLは、クラブごとの環境対策を評価し、ランキング形式で発表する国際的なプロジェクトです。

Sports Positive Leagueの評価例を表した図

Sport Positive Leagueの表示例

Jリーグはアジアで初めて全クラブがSPLに参加し、欧州のプレミアリーグやドイツのブンデスリーガなども参画しています。評価項目は「エネルギー効率」「再生可能エネルギー利用」「廃棄物削減」「ファンや地域への環境教育」など12項目。これにより、クラブのカーボンニュートラルへの貢献度が分かりやすくなり、ファンやスポンサーも応援しやすくなりました。

SPLへの参加をきっかけに、Jリーグでは「サステナビリティ事業活性化プロジェクト」が始まり、クラブごとに気候アクション計画を作成。最大400万円の補助金制度も導入され、脱炭素の取り組みが加速しています。

出所:アジア初となるSport Positive League(SPL)参画を決定 -Jリーグ全体でサステナビリティ事業を推進-(J.LEAGUE)

ヴァンフォーレ甲府の「見える化」プロジェクト

Jリーグのクラブ「ヴァンフォーレ甲府」は、2004年からエコスタジアムプロジェクトを始めました。リユースカップの導入や、ごみの分別回収、CO₂削減に積極的に取り組んでいます。2004年から2021年までの間に、約1,004,000個のリユースカップを使い、77.4トンものCO₂削減に成功しました。この量は、5,522本の杉の木が1年間に吸収するCO₂と同じくらいです。

さらに、2019年からはクラブの活動によるCO₂排出量を「カーボンフットプリント(CFP)」という方法で細かく算定し、環境への負荷を「見える化」しています。これにより、自分たちがどれだけ地球に負荷をかけているかを把握し、次のアクションにつなげています。

出所:SDGsへの取り組み ―皆様と共に、未来へ―(ヴァンフォーレ甲府)

アルバルク東京のカーボンオフセット

プロバスケットボールチームの「アルバルク東京」も、カーボンニュートラルに積極的です。2022-23シーズンには、ホームゲームで発生したCO₂排出量(約1,212トン、これは325世帯分の年間排出量に相当)を算定し、その分を吸収する活動に寄付する「カーボンオフセット」を実施しました。

このような取り組みを通じて、アルバルク東京は「スポーツの力で社会課題を解決したい」「多くの人にカーボンニュートラルの大切さを知ってもらいたい」と考えています。

出所:2022-23シーズン 脱炭素プロジェクト結果のご報告(アルバルク東京)

清水エスパルスの再生可能エネルギー活用

サッカークラブの「清水エスパルス」は、スタジアムの電力を100%実質再生可能エネルギーでまかなう取り組みを始めています。また、試合ごとにCO₂排出量のオフセットも行い、ホームゲームでの環境啓発活動にも力を入れています。たとえば、フードドライブやエコな紙コップの試用など、地域やファンと一緒にカーボンニュートラルを目指す工夫がたくさんあります。

出所:CLUBエコチャレンジ(清水エスパルス)

スポーツ業界のカーボンニュートラルを支える工夫

1. CO₂排出抑制の工夫

公共交通機関の利用を促す

デジタルチケット化で紙の無駄を減らす

リサイクル品やリユース食器の活用

再生可能エネルギーの導入

マイボトルやマイバッグの持参を推奨

2. カーボンオフセットと啓発活動

カーボンオフセットとは、どうしても排出してしまうCO₂を、植林活動や再生可能エネルギーの普及などで「埋め合わせ」することです。スポーツイベントでは、CO₂排出量を「見える化」し、ファンや地域住民と一緒にオフセット活動を行うケースが増えています。

また、子ども向けの環境教育や、ファン参加型のエコイベントなど、カーボンニュートラルの大切さを伝える活動も広がっています。

3. まだ残る課題と今後の展望

選手や観客の移動によるCO₂排出をどう減らすか

サプライチェーン(ユニフォームやグッズの製造など)全体でのカーボンニュートラル化

持続可能な運営モデルの確立と普及

これからは、スポーツ業界だけでなく、私たち一人ひとりがカーボンニュートラルを意識して行動することが大切です。

まとめ:スポーツから始めるカーボンニュートラルアクション

スポーツ業界では、カーボンニュートラルを目指してさまざまな工夫が進められています。CO₂排出量の「見える化」や再生可能エネルギーの活用、カーボンオフセット、リユースやリサイクルなど、どれも地球の未来を守るための大切な一歩です。

スポーツを楽しみながら、地球にやさしい行動を選ぶことで、私たち一人ひとりがカーボンニュートラル社会の実現に近づくことができます。これからも、スポーツ業界の取り組みに注目しつつ、自分にできることから始めてみましょう!