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【完全保存版】中小企業のためのカーボンニュートラル完全ガイド③〜排出量削減の実行と改善〜

【完全保存版】中小企業のためのカーボンニュートラル完全ガイド③〜排出量削減の実行と改善〜

第1回では「カーボンニュートラルとは何か」を知り、第2回では「自社の排出量をどう測るか」を解説しました。そして今回、第3回のテーマは「減らす」です。

「測った結果、数字はわかったけど、じゃあ実際にどうすれば減るの?」──多くの企業がつまずくのはここです。削減と聞くと「高額な設備投資が必要」「高度な技術がなければできない」と構えてしまいがちですが、実はすぐに始められる運用の工夫や、小さな投資で大きな効果を生む改善策が多くあります。

本記事では、環境省『中小事業者版脱炭素化取組実践ガイドブック』をベースに、削減のステップを5つのカテゴリに分けてご紹介します。

  1. ロードマップづくり―削減の道筋を描く方法
  2. 削減策の決定―運用改善から再エネまでの具体策
  3. 削減策の実行―計画を現場で動かすプロセス
  4. 続ける仕組みづくり―管理・評価・発信で改善を定着させる方法
  5. よくある質問―つまずきを解決するヒント

読み終える頃には、削減が「難しい挑戦」ではなく、「段階を踏めば誰でもできること」に見えてくるはずです。

引用元:環境省『中小事業者版 脱炭素化取組実践ガイドブック』

目次


それでは早速見ていきましょう!

①ロードマップづくり

前回の記事と重なる部分もありますが、CO₂を減らすフェーズは目標の確認から始めます。

排出量削減は、ゴールのないマラソンではなく「山登り」に例えるとわかりやすいです。山頂にいきなりテレポートすることはできませんが、地図を広げてルートを決め、無理のないペースで歩みを進めれば必ず到達できます。

カーボンニュートラルへの挑戦も同じで、まずはどの山を目指すか(目標設定)、どのルートを選ぶか(対策案)を決めることが第一歩です。次の3つのステップに分けてロードマップを策定していきましょう。

STEP1|削減目標と施策の設定:現状に合った目標を立てる

大企業では、パリ協定などグローバルの脱炭素水準と整合した高い目標を立てることが求められていますが、中小企業においてはまず「どれくらい減らすか」を決めるところから始めましょう。ここで重要なのは、自社の状況に合った「背伸びしない目標」です。
たとえば「来年度は現状維持を目指す」「2年後までに5%削減」など、少し努力すれば達成できる目標を置きましょう。

削減目標と対策案を設定する際のポイントは、次のとおりです。

ポイント

現状を振り返る

電気・ガス・燃料などエネルギー使用量の請求書や見える化ツールを確認する。


どの部門・どの設備がCO₂排出量の上位を占めているかを数値で把握する。


例:空調40%、ボイラー25%など

外部要請やガイドラインを確認する

主要取引先や業界団体からの要請やガイドラインを確認し、サプライチェーン全体の基準に沿う必要がないか確認・把握する。


例:サプライチェーンのScope 3削減目標など

法規制・制度改正を見据える

将来的な動向をリサーチし、規制強化前に先回りして進められないかを社内で検討する。

社内で合意する

経営層・現場・財務担当が集まり、確実に達成できる、投資効果が見込めると納得できる目標を定める。


従業員への共有も早めに行うことで現場の協力を得やすい。

例えるなら、ダイエットで「いきなり10 kg減」を目指すと多くの方が途中で挫折しますが、「まずは2 kg減」「次は筋肉量を増やす」といった段階的な目標のほうが長続きしやすいのと同様です。

排出量削減も同じく、次のようなステップを踏むと無理なく進められます。

  • 現状を維持しながら省エネ運用で数%減らす
  • その成果を資金やデータの裏付けにした設備投資を行う
  • 再エネ導入で仕上げる

さらに、目標は固定するのではなく、PDCAサイクルで毎年見直しを図ることが大切です。エネルギー価格の変動や新技術の登場など、環境の変化に応じて柔軟に見直していきましょう。

STEP2|主要排出源と削減余地の特定:データで「ムダ」を見える化

次は、「どの分野のCO₂排出量を減らすか」を見極めるステップです。

排出量を「数字」にして見える化することで、感覚だけでは気づかなかった意外な改善余地が見えてくるでしょう。

ポイント

  1. 部門・設備ごとに分けてみる

まずは電気・ガス・燃料の使用量を、工場・オフィス・店舗などの部門単位、さらに空調・照明・生産設備・搬送機器といった設備単位にブレークダウンする。


例:工場の空調で全体の約30%、照明で20%、機械で40%

  1. 大口を探す

主要排出源の上位2〜3項目が全体の半分以上を占めることは珍しくない。


自社のCO₂排出量の大口を探すことで、投資効果が高いターゲットの明確化につながる。


例:古いボイラーが全体排出の20%、空調が電力の約50%

  1. 現場の感覚も大切にする

データだけでは見えない「ムダ」にも改善余地が隠されているケースも多い。


現場従業員の感覚や経験知を拾うのも重要なポイント。


例:「この機械は古くてムダが多い」「夜間はスイッチを切り忘れがち」など

  1. ピーク時・非ピーク時の差を確認する

電力需要のピーク時に、特定の設備が過剰にエネルギー消費をしていないかを確認する。

このステップでは、日常のなかに潜むエネルギーの「ムダ」を探し出す感覚が大切です。

たとえば「昼間でも照明がつけっぱなし」「使っていない機械が稼働したまま」「空調の設定温度が季節に合っていない」といったように、ちょっとした気づきが改善のきっかけになります。

社員同士でチェックリストを片手に現場を歩きながら、「無駄探しゲーム」のように楽しんで発見を共有すると、気づきが増えて次の行動にもつながりやすくなります。

こうした小さな発見を積み重ねることで、コストをかけずに大きな削減成果を得られる可能性が高まるでしょう。

STEP3|対策の具体化と計画策定:削減策を数値で示し、実行へつなげる

「どれくらい減らすか」と「どこを減らすか」が見えたら、最後は「どうやって減らすか」を行動計画に落とし込む段階です。

計画を数字と表で“見える化”すると、現場の理解が得やすく、社内外への説明もしやすくなります。

ポイント

  1. 優先順位を決める

まずは削減策を洗い出し、「効果が大きい」「コストが低い」「すぐに着手できる」の3つの条件で整理する。


照明のLED化や空調温度の調整など運用改善は初期投資が少なく短期で実行できる。


高効率ボイラーや断熱改修は投資額が大きいため、補助金の有無や回収年数を見て中期計画に回すのがおすすめ。

  1. 費用と効果を見積もる

削減できるエネルギー量とコストを概算する。


例:LED導入で年間約9万円削減、投資40万円すると、4年で回収が可能。

  1. 計画表にまとめる

「実施する対策」「期限」「担当」「目標削減量」を一覧化し、社内で共有する。


シンプルな表にまとめることで、説明や進捗管理もしやすくなる。

  1. 補助金を調べる

国や自治体の省エネ補助金・低利融資を事前に確認する。


対象設備や申請時期を計画に組み込む。

この計画表は、社内の進捗管理だけでなく、取引先や金融機関への説明資料としても「強力な武器」となります。数字と行動がひと目でわかるため、「計画性を持って削減に取り組んでいる会社」という印象を与えられるでしょう。

たとえば、取引先にはサプライチェーン全体の脱炭素要請への対応力を示せるうえ、金融機関に対しては省エネ投資の効果と返済計画の根拠として活用することも可能です。

さらに、補助金申請や自治体への報告、ESG評価やサステナビリティレポートの裏付け資料としても使えるため、社外との信頼構築にもつながるでしょう。

②削減策の決定

ここからは、実際に「どんな改善策があるのか」を一覧でご紹介します。

運用改善(初期費用ゼロ〜少額)

最も手軽で始めやすいのは、設備の運用改善です。

● 冷暖房の設定温度を1℃調整するだけで空調電力は約3〜5%減少。

● 不要な照明を消し、自然光を活用する。

● 圧縮空気の漏れを点検する(シュッと音がする配管は要注意)。

● PCや複合機は使用後スリープ設定、電源タップでまとめてオフ。

日々のオペレーションを見直すことも、立派な脱炭素推進です。

温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ ~中小事業者版~『運用改善対策例』

小さな設備投資

続いて、比較的少額な設備投資の例を見てみましょう。

● LED照明への更新(電気代の20〜40%削減)。

● インバータ空調に切替(消費電力を15〜30%削減)。

● 冷凍庫の扉を自動クローズ化し、無駄な冷気漏れを防止。

大規模な設備投資

さらに大きな改善効果を狙う場合、大規模な設備更新も選択肢に入ります。

● 高効率ボイラーへのリプレース。

● 高効率モーターやトランスの導入。

● 建物の断熱改修。

温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ ~中小事業者版~『設備導入対策例』

再エネの導入

ここまではエネルギーの消費量を節約する施策が主でした。別の切り口として、使用する電力の種別を切り替えるという方法があります。

● 再エネメニューに電力契約を切り替える。

● 環境価値証書(非化石証書、J-クレジット)を購入する。

● 太陽光発電を導入し、自家消費モデルやPPA(電力購入契約)を活用する。

温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ ~中小事業者版~『再エネ電力の調達方法』

会社の状況によって、最適な施策は異なってきます。自社にあった削減策を検討してみてください。

③削減策の実行

削減策が見えてきたら、次は「どう実行するか」です。
実行でつまづかないように活用できるポイントを数点ご紹介します。

  1. 優先順位を決める
    効果が大きい、費用が安い、すぐにできる──などの切り口で施策の優先順位を決定してみましょう。
  2. 実行計画表をつくる
    「施策名」「担当」「期限」「削減目標」を1枚にまとめ、会議や掲示板で共有してみましょう。
  3. 簡単な費用対効果を試算する
    例えば、
    LED導入で年間9万円の電気代を削減する場合、投資額が40万円なら4.4年で回収できる
    というような形で試算を行うと社内での説明がスムーズになります。
  4. 補助金・支援制度を活用する
    公募スケジュールを逆算し、申請書類(見積書、施工前後の写真など)を揃えます。

④続ける仕組みづくり

排出量削減の取り組みは、実施して終わりではなく、継続することが何より重要です。削減を軌道に乗せるために、例えば下記のような内容も行うと効果的です。

進捗管理:毎月エネルギー使用量を記録、前月比や前年同月比でチェック。

評価:思ったほど減らない場合は現場で理由を議論、施策を修正。

発信:成果を社内で共有し、取引先や金融機関にも報告。小さな成功もアピール材料になります。

継続:年1回の総点検で次年度の目標を更新。

⑤よくある質問

最後に、よくある質問にお答えいたします。

Q.設備投資は難しいです。
A.大規模の設備投資が難しい場合は、初期費用無料や小規模で始められる運用改善、さらには短期回収が見込めるLED照明更新から着手するのがおすすめです。LEDは電気代の削減効果が高く、導入後1〜4年程度で投資を回収できる事例もあります。

また、国や自治体の省エネ補助金や低利融資制度を活用することで初期負担を大幅に抑えられるため、設備更新のハードルも下がるでしょう。

段階的に「小規模・中規模・再エネ導入」とステップを踏めば、資金計画が立てやすく、現場への負担も少なく進められます。

Q.効果が見えにくいです。
削減効果は単純な前年同月比だけでは正確に評価できないケースもあります。

たとえば工場なら生産量、店舗なら来客数や営業時間の変化などを考慮し、操業量や稼働率で補正した上で使用量を比較しましょう。

さらに、月ごとの推移グラフやKPIダッシュボードを用意し、現場担当者と一緒に確認する仕組みを作ると、改善点を早期に発見しやすくなります。

まとめ:小さな一歩が未来を変える

排出量を「減らす」取り組みは、特別な企業だけでなく、あらゆる中小企業が実践可能です。

● 毎日の運用改善で“すぐにできること”を積み重ねる。

● 短期回収の投資でエネルギーコストを下げる。

● 中期的に設備を刷新し、再エネで仕上げる。

この流れを繰り返せば、自然と「数字が減る」体験が積み重なり、社員全員の行動も変わっていきます。さらに、その成果を発信することで、取引先からの信頼、金融機関からの評価、消費者からの共感が広がります。

この三部作で伝えたかったのは、カーボンニュートラルの取り組みは、大企業だけのものではなく、中小企業こそ実践可能だということです。中小企業こそ、柔軟にかつ身近なところから取り組めます。これを機に、最初の一歩を踏み出してみてください。

今回の記事は環境省の脱炭素化に向けた取組実践ガイドブック(入門編)を参照しております。こちらの資料の最後には、脱炭素を進める上で参考になる情報がまとまっております。ぜひ合わせてご活用ください。

温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ ~中小事業者版~『脱炭素化の取り組みを進める上で参考になる情報』