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【完全保存版】中小企業のためのカーボンニュートラル完全ガイド②〜CO₂の見える化」ツール、どう選ぶ?〜

【完全保存版】中小企業のためのカーボンニュートラル完全ガイド②〜CO₂の見える化」ツール、どう選ぶ?〜

前回の第1回では、「カーボンニュートラルとは何か?」「なぜ温暖化対策が中小企業にも求められているのか?」という基本的なお話をしました。
3つのステップに分けると「知る・測る・減らす」のうち、最初の「知る」のフェーズでした。

今回はその次のステップ、「測る」に焦点をあてます。
ここでいう「見える化」とは、自社がどれだけCO₂を排出しているのかを数値として把握することを意味します。

ちょっとイメージしてください。
健康診断を受けると、血圧やコレステロールの数値が出ますよね。その数字を見て初めて「少し運動しないと」「食生活を改善しよう」と考えることができます。
会社のCO₂排出量も同じで、まず「数値」で現状を知ることが、改善や削減の出発点なのです。

とはいえ、「測る」といっても具体的な方法が分からず、不安に思う方も多いでしょう。

しかし、経済産業省や環境省、商工会議所などが提供するツールを使えば、特別な知識がなくても算定できます。
今回はその代表的な方法を紹介し、次の章では「メリット・デメリット」や「どのような企業に合うか」について詳しくみていきましょう。

目次

CO₂排出量を「見える化」する方法

カーボンニュートラル実現の第一歩は、まず「現状を数字で把握すること」です。

CO₂排出量を見える化することで、自社のどの設備や拠点、工程においてCO₂多く排出しているのかが一目で分かり、改善の優先順位を立てやすくなります。

ここでは、無料のExcelシートから高度なクラウドサービスまで、CO₂排出量を「見える化」する主要な3つの算定方法をご紹介します。

①「使用量×排出係数」で算定(積上法)

最も基本的で多くの企業が導入しやすい方法が「積上法(積み上げ方式)」です。

電気やガス、ガソリンなどの使用量を集計し、国が定めた「排出係数」を掛け合わせてCO₂排出量を算出します。

たとえば「1kWhの電力を使うと、約0.5kgのCO₂が出る」という基準があるとしましょう。
もしあなたの会社が月に1,000kWhの電力を使ったなら、排出量は約500kgとなります。とてもシンプルな仕組みです。

環境省では、エネルギーなどの排出係数を温対法のウェブサイトで開示しているほか、1次生産品や工業製品、無形のサービスや建物など様々な分野の単位あたりのCO2排出量「排出原単位(排出係数)」を一覧にまとめた「排出原単位データベース」を公開していますので、以下のリンクよりデータベース(Excel形式)をダウンロードいただき、「5産連表DB」(産業連関表データベースの略)シートなどから自社が調達している物品の調達によるCO2も算定可能です。

エネルギーなどの排出係数はこちら:https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html

排出原単位データベースはこちら:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html

②「CO₂チェックシート」(商工会議所)

もう少し手軽に始めたい方には、商工会議所が提供する「CO₂チェックシート」がおすすめです。
こちらもExcel形式で、毎月の電気やガスの使用量を入力するだけ。自動で排出量を算出し、グラフまで出してくれます。

CO2チェックシートご利用ガイド(商工会議所):https://eco.jcci.or.jp/checksheet

専門知識は不要で、「まずやってみる」には最適なツールです。
ただし、あくまで全体像をざっくり把握するのに向いているため、細かい部門別管理や複数拠点の比較には不向きです。

③クラウド型サービス(民間ツール)

さらに進んだ方法が、民間のクラウド型サービスを使うことです。
「e-dash」「zeroboard」「C-Turtle」などでは、請求書や使用データを自動で読み込み、ダッシュボード上でグラフ化。Scope3(取引先や物流を含む排出量)まで算定できるものもあります。


また、地域によっては地銀等が算定ツールを開発し、地域企業が普段から付き合いのある地銀の支援を受けながらCO2の把握や脱炭素経営を開始できる事例もあります。

例:

● e-dash:https://e-dash.io/

● zeroboard:https://www.zeroboard.jp/

● 肥後銀行:https://www.higobank.co.jp/business/tansaku/

クラウド型の強みは、データをまとめる作業を大幅に省けること。多拠点・多部署の情報も一括で管理できるため、効率的です。

どう選ぶ?方法ごとのメリット・デメリット

CO₂排出量の「見える化」は、どのツールを選ぶかによって、かかる手間や精度、費用感が大きく異なります。

まずは自社の規模や拠点数、どの程度まで詳しく分析したいかを具体的に整理し、最適な方法を選ぶことが大切です。

ここでは、先ほど触れた3つのCO₂排出量を「見える化」する代表的な手段のメリット・デメリットを詳しく解説します。導入時に知っておきたい特徴や注意点も併せて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

「使用量×排出係数」で算定したデータベースの活用

「使用量×排出係数」で算定する積上法は、国が公表している排出係数を活用しながら、電気・ガス・燃料などの使用量を集計する最も基本的な方法です。

専用ソフトを導入しなくてもExcelなど社内ツールで計算できるため、初期費用を抑えて始めたい企業にとって有力な選択肢となります。一方で、取り扱うデータが増えると入力や管理が煩雑になり、毎年更新される排出係数を反映させる手間もかかるといったデメリットにも注意が必要です。

この方法の主なメリット・デメリットは、次のとおりです。

メリット

  • 無料のデータベースならコストがかからない
  • 自社で算定しやすい表などに排出係数を導入できる

デメリット

  • 入力が煩雑であるため、手間と時間がかかる
  • データベースの更新に応じて排出係数の更新等のチェックが欠かせない

上記のメリット・デメリットを踏まえ、「使用量×排出係数」で算定したデータベースを活用したCO₂の見える化が向いている企業は、次のような特徴があります。

向いている企業の特徴

  • 電気やガス、ガソリンなど算定対象が少ない企業
  • 拠点数や事業所や拠点数が限られている企業
  • Scope 1・2を把握したいという段階の企業

この方法は、社内の電力・ガス・燃料といった限られた項目を把握したい企業に特に適しています。また、拠点数が少なくデータ収集ルートが明確な事業者であれば、Excel管理でも十分対応でき、初期投資なしで算定を始めらます。

一方で、調達品や物流などサプライチェーン全体をカバーしようとすると入力作業が急増するため、将来の拡張を視野に体制や工数をあらかじめ検討しておきましょう。

参照:環境省『算定方法の考え方』

CO₂チェックシート

商工会議所が無料で提供する「CO₂チェックシート」は、Excelに毎月の電気・ガス使用量を入力するだけで自動計算とグラフ化ができる手軽さが魅力のツールです。

このツールのメリット・デメリットは、次のとおりです。

メリット

  • 無料提供されており、コスト負担なしで導入できる
  • 専門知識を持たない担当者でも扱いやすい
  • Excel形式で、月々の電気・ガス等使用量を入力するだけで排出量を自動計算できる
  • グラフ表示機能等があり、視覚的に排出量推移を把握しやすい

デメリット

  • 部門別・設備別・細かい要素に分けた分析には対応していない
  • 複数拠点や支店間をまとめて比較・管理する機能が限定的
  • 入力項目が増えたり燃料種類が多かったりすると、手入力作業が煩雑になる

このチェックシートは、まず全体の排出量を把握し、社内共有や意識づけに活かしたい企業に向いたシンプルなツールといえるでしょう。扱いやすく、導入のハードルが低い点は大きなメリットです。

一方で、複数拠点や部門別での詳細分析には機能が限定されることから、本格的な削減計画を立てる段階では積上法ツールやクラウド型サービスへの移行を視野に入れることをおすすめします。

CO₂チェックシートが向いている企業の特徴は、次のとおりです。

向いている企業の特徴

  • 小規模事業者、店舗・工場など単一拠点で運営している企業
  • 初めてCO₂排出量の算定・見える化に取り組む企業
  • エネルギー使用項目が比較的少ない事業(電気・ガス程度)を主とする企業
  • 社内で分かりやすい形で排出量を見せたい、意識改革を促したい企業

このようにCO₂チェックシートは、初期費用をかけずに排出量の全体像を把握し、社員や経営層への説明資料として活用したい企業に適しています。

まずは電気・ガスなど主要なエネルギー使用量を定期的に記録し、排出量の推移を把握することから始めるだけでも、省エネ行動や削減策を検討するきっかけにし、スムーズに精度の高い管理へのステップアップにつなげていきましょう。

参照:日本商工会議所『CO2チェックシートについて』

クラウド型サービス

近年においては、請求書やスマートメーターなどのデータを自動で取り込み、ダッシュボード上で排出量を一元管理できる「クラウド型サービス」が幅広い業界や企業において普及しています。

なかには、取引先や物流、廃棄物などを含む排出量である「Scope3」まで算定できる機能を備えたものも多く、複数拠点や部門を抱える企業でも効率的に運用できるでしょう。

導入には利用料がかかるものの、国や自治体の補助金の対象となるサービスもあり、近年は中堅企業の利用も増えています。

クラウド型サービスを活用するメリット・デメリットは、次のとおりです。

メリット

  • 請求書・スマートメーター・燃料カードなどと連携し、データ収集・計算が自動化される
  • Scope3まで対応可能なサービスが多く、サプライチェーン全体の排出量把握がしやすい
  • 多拠点・多部門のデータをクラウド上で統合管理でき、リアルタイムで進捗を確認できる

デメリット

  • 月額または年額の利用料が発生するが、IT導入補助金などを活用できるケースもある
  • サービスによっては初期設定やデータ移行に時間と労力がかかる恐れも

上記のようなメリット・デメリットを踏まえると、クラウド型サービスの活用に向いている企業は、次のような特徴があります。

向いている企業の特徴

  • 多拠点を持ち、大量のエネルギー使用データを扱う企業
  • Scope3まで含めた算定や、取引先・投資家など外部への排出量開示に迅速に対応する必要がある企業
  • 省力化と高精度な管理を同時に実現したい中堅企業や大規模企業

クラウド型サービスは、担当者の入力負担を大幅に減らせるだけでなく、複数拠点の排出量を比較しながら重点改善箇所を見極めるのにも役立ちます。

もちろんシステムを導入する際の初期投資は必要ですが、補助金制度の活用や業務効率化によるコスト削減効果を踏まえれば、中長期的には投資対効果が期待できる方法です。

本格的に脱炭素経営を進めたい企業や、ステークホルダーへの情報開示が求められる企業にとって有力な選択肢といえるでしょう。

まとめ

CO₂排出量を「見える化」することは、カーボンニュートラルへの第一歩です。
そしてその方法は、「無料で簡単に始められるもの」から「高度な分析・自動化対応」まで幅広く存在します。

● 小規模ならチェックシート
● 自作のシートで自由に算定管理するなら排出原単位データベース
● 多拠点・Scope3対応ならクラウド型サービス

大切なのは「最初から完璧を目指さないこと」。
まずは自社の状況に合った方法でスタートし、将来的な拡張や高度な管理体制を見据えながら段階的に進めていくことが大切です。

算定した数字は、社員の意識改革や取引先への信頼獲得につながり、経営の強みになります。

第3回では、この「測ったデータをどう使うか?」について詳しく解説します。
省エネ設備の導入や再エネへの切り替え、日常の小さな工夫まで、具体的な「削減」のアクションについて考えていきましょう。

「知る」から「測る」へ、そして「減らす」へ。
一歩一歩、確実に進めてください。