ビジネスモデルを再構築せよ—商用車ユーザーの脱炭素化を支援する「EVライフサイクルサービス」
EVライフサイクルサービスとは、GHG削減計画立案からEV導入、EVに使用するバッテリーのリサイクルまでの全プロセスをワンストップでサポートするサービスです。具体的には、以下のサービスを提供します。
1.GHG削減計画立案:GHG削減計画やEV導入計画の策定、最適な車種の選定、充電インフラの設計
2.EV・充電器導入:充電器の設置工事、電力契約、補助金申請、EV調達、リース契約
3.メンテナンス:保守点検、修理
4.エネルギーマネジメント*:電力使用量の可視化、多数台充電時の使用電力量の平準化
5.再エネ電力の供給:ヤマトグループが保有する太陽光発電設備由来の電力を含む、再エネの供給*
6.EV入替・廃棄:EVの再販や使用済みバッテリーのリサイクルに対応
※2025年度末までにサービス提供予定
「EV導入には多くの課題が存在します。どの車種を選べばいいのか、どこに充電器を設置すればいいのか、どのようにエネルギーマネジメントをすればいいのか。私たちは、これらの課題をワンストップで解決できるサービスを提供することで、企業のEV導入を加速させたいと考えています」
ーーサービス展開の裏には、どのような背景があったのでしょうか。
「ヤマトグループは、2025年3月末時点でEVを約4,300台導入しています。現在に至るまで様々な課題に直面し、一つ一つクリアしてきました。かなりハードルの高い取り組みであったというのが率直な感想です。」
ヤマトグループがEV導入で直面した課題や苦労を、他社には経験してほしくないという思いが、このサービスの開発につながりました。
「私たちが経験してきたことは、『自分たちだけの課題ではない』『ヤマトグループだけではなく、車両を使用する事業者と一緒に社会全体の脱炭素を推進していきたい』という思いがありました。そこで、私たちがEV導入の過程で経験した、充電インフラの整備やコスト面の課題は、多くの企業が同様に直面するものだと考えて、サービス提供をすることにしました。」
そこで同社は、自社の経験とノウハウを活かし、「EVライフサイクルサービス」という新たなビジネスモデルを構築しました。
「EV導入においては、充電器の設置やEVの調達はもちろんですが、長期的なGHG削減計画を立て、どういうステップで中長期的にEV化していくかが重要です。」
EV導入計画立案の支援では、企業の現状やニーズに合わせて、最適なEV導入計画を策定します。
「数年かけてEV導入していくことが多いですが、我々は、どの拠点にいつ入れるか、計画からサポートさせていただくところが大きなポイントです。」
EVライフサイクルサービスの強みは、その「ワンストップ」性にもあります。
ーーなぜ、「ワンストップ」なのでしょうか。
「EV導入には、車両、充電器、電力、メンテナンスなど、様々な要素が複雑に絡み合います。これらの調整や連携が難しい要素を、EVライフサイクルサービスを通して全て一元的に提供することで、効率的なEV導入とGHG排出量削減を実現することができると考えています。」
中小企業への展開可能性
EVライフサイクルサービスは、大手企業だけでなく、中小企業への展開も視野に入れています。
ーー中小企業には、サービス導入によりどのようなメリットがあるのでしょうか。
「EV導入に関する知識や経験が少ない企業もあり、導入に踏み出しにくい傾向があります。私たちのサービスは、ワンストップで提供できることや、リースを活用したスキームになっており、企業の規模に限らず、導入支援ができます。」
グリーンイノベーション基金を活用した実証実験
また、ヤマト運輸は、経済産業省のグリーンイノベーション基金を活用し、EVに関する新たな技術の実証実験を進めています。
ーー現在はどのようなEVの研究を進めているのでしょうか。
「グリーンイノベーション基金は、脱炭素化に向けた革新的な技術の開発・実証を支援する基金です。私たちは、この基金を活用し、EVや再エネ電力の導入・運用にかかる実証に取り組んでいます。」
特に注目すべきは、カートリッジ式バッテリーを活用したEVの実証実験です。
ーーカートリッジ式バッテリーとは。
「カートリッジ式バッテリーとは、EVから着脱可能なバッテリーです。EVとバッテリーを分離させることで、充電時間の短縮や充電インフラのコスト削減につながります。将来的には、カートリッジ式バッテリーの規格を標準化することで、EVに限らず、様々な用途におけるバッテリー利用につなげたいと考えています。」
この実証実験は、群馬県をフィールドとして、2030年度まで長期的に行われる予定です。
物流業界の脱炭素化の未来
EVシフトは、物流業界にどのような影響を与えるのでしょうか。
ヤマトグループは、EVが浸透した未来の世界観を次のように表現しているそうです。
ーーEVには、将来どのような活用法があるのでしょうか。
「カートリッジ式バッテリーの浸透・標準化に加えて、我々がバッテリーを運ぶことで、地域のインフラとして活用できる可能性も検討しています。今後、過疎化が進んだ地域などでは、送配電インフラの維持などの問題が出てくる可能性があります。その時は、我々が運ぶバッテリーで地域の電力を賄うことによって、ある種のマイクログリッド実現に貢献できるかもしれません。」
また、近年、自然災害が頻発していますが、ヤマトグループのEVを活用した災害時の支援も自治体と協力して取り組んでいくとしています。
「災害時には、EVを非常用電源として活用することを想定しています。例えば、避難所にEVのバッテリーを供給し、携帯電話の充電や照明の電源として活用したり、医療機関に電力を供給したりすることができると考えています。」
社会全体の脱炭素化を目指して
最後に、様々なステークホルダーと脱炭素推進を目指すヤマトグループの今後の展望をお聞きしました。
「EV利用が広がらない理由には充電する場所が少ないという点もありますが、私たちがしっかりとEVを世の中に広げていくことで、充電スポットの整備が進み、EV拡大につながるのではと考えています。充電設備を含めたEV全体のネットワークの広がりが加速することで、社会全体の脱炭素を推進できると信じています。」
終わりに
脱炭素経営は、企業に新たな可能性を開く「成長のエンジン」です。ヤマトグループの事例が示すように、脱炭素化への取り組みは単なるGHG削減にとどまらず、事業革新・地域共創など、新たな価値を同時に生み出す力を持っています。
「EVライフサイクルサービス」の開発は、自社の課題解決から始まった取り組みが、業界全体の変革につながるサービスへと発展した好例です。重要なのは、脱炭素経営を「義務」ではなく「戦略」として捉える視点です。ヤマトグループがEV導入の苦労を「他社支援のノウハウ」に転換したように、課題の解決プロセスそのものを転換することで、新たな競争優位性を生む契機となるはずです。