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scope 1・2・3の違いを分かりやすく解説

scope 1・2・3の違いを分かりやすく解説

近年、企業における脱炭素の取り組みが注目を集めています。「2050年カーボンニュートラル」という目標に向けて、多くの企業が行動を開始していますが、具体的に何から始めればよいのか迷われている方も多いのではないでしょうか。実は、脱炭素への第一歩は、自社のCO2排出量を正確に把握することから始まります。

今回は、企業のCO2排出量を把握する際の基本となる「scope 1・2・3」について解説していきます。初めて聞く方にも理解いただけるよう、身近な例を交えながら説明していきましょう。

目次

scopeの基本を理解する

CO2排出量の把握はなぜ必要か

企業がCO2を減らす取り組みを、個人のダイエットに例えて考えてみましょう。ダイエットを始める際、まず体重計に乗って現状を把握します。そして「今の体重が70kgで、これを60kgまで減らしたい」というような具体的な目標を立てます。

CO2排出量の把握も同じ考え方です。自社が現在どのくらいCO2を排出しているのかが分からなければ、どれだけ削減すべきなのか、その目標も立てられません。

このCO2排出量の把握は、企業の環境面での健康診断といえます。財務諸表が企業の経済的な健康状態を示すように、CO2排出量は企業の環境負荷を示す重要な指標なのです。銀行からの融資や取引先との新規取引の際に決算書の提出を求められるように、これからはCO2排出量に関する情報開示も、企業価値を測る重要な要素となっていきます。

scope 1・2・3とは

企業活動に伴うCO2排出は、実に様々な場面で発生します。工場での製造時、オフィスでの電力使用、原材料の調達、製品の輸送、従業員の通勤など。これらの排出源を整理して把握するための枠組みが、scope 1・2・3という分類です。

scope1

企業が直接的に燃料を使用することで排出するCO2です。分かりやすい例を挙げてみましょう。

  • 工場でボイラーを稼働させるために重油を燃やす
  • 営業活動で社用車を使用してガソリンを消費する
  • 給湯室でお湯を沸かすためにガスを使用する

これらは企業が直接コントロールできる排出源です。

scope2

他社から購入する電気や熱の使用に伴う間接的なCO2排出です。

例えば、オフィスや工場で使用する電気は、発電所で石炭などの化石燃料を燃焼させて作られています。1キロワット時の電気を使用することは、発電所で一定量の石炭を燃やすことにつながります。企業自身は直接燃料を燃やしていませんが、電気を使用することで間接的にCO2排出に関与しているのです。

scope3

先ほどのscope 1・2以外の間接的なCO2排出すべてを指します。これは15のカテゴリーに分類されており、企業活動の上流から下流まで、実に様々な場面での排出が含まれます。

家電メーカーの具体例

冷蔵庫を製造する際、部品メーカーから様々な部品を調達します。その部品を作る過程で使用される電気やガスから出るCO2は、家電メーカーのscope3のカテゴリー1(購入した製品・サービス)に含まれます。なぜなら、家電メーカーが部品を調達しなければ、その部品製造時のCO2は発生しなかったと考えられるからです。

さらに、部品の輸送(カテゴリー4:輸送・配送)、従業員の通勤(カテゴリー7:通勤)、出張で使用する飛行機や電車(カテゴリー6:出張)、製品の販売、使用(カテゴリー11:販売した製品の使用)、廃棄(カテゴリー12:販売した製品の廃棄)まで、事業活動に関連するあらゆる場面でのCO2排出がscope3に含まれます。

業種別の特徴と実例

製造業

製造業では一般的にカテゴリー1(購入した製品・サービス)の割合が大きくなります。例えば、自動車メーカーでは、エンジン部品、車体、電装品など、数万点に及ぶ部品の製造時のCO2排出が含まれます。部品メーカーとの協力による環境負荷低減が重要な課題となっています。

また、自動車や家電製品など、使用時にエネルギーを消費する製品を製造している企業では、カテゴリー11(販売した製品の使用)の排出量も無視できません。このため、製品の省エネ性能の向上が、scope3削減の重要な取り組みとなります。

オフィス系企業

コンサルティング会社や保険会社などのオフィス系企業では、事務用品の調達(カテゴリー1)に加えて、従業員の通勤・出張(カテゴリー7)の占める割合が比較的高くなります。

特に近年注目すべき点として、クラウドサービスやデータセンターの利用に伴うCO2排出があります。デジタル化が進む中、サーバーの電力使用量が増加しており、このカテゴリー2(資本財)の排出量が増える傾向にあります。

小売業

スーパーマーケットチェーンや家電量販店では、店舗設備、特に冷凍・冷蔵設備などの資本財(カテゴリー2)が大きな割合を占めます。また、販売する商品の製造時のCO2排出(カテゴリー1)も重要です。

特にスーパーマーケットの場合、商品の調達方法を工夫することでscope 3を大きく削減できる可能性があります。例えば、遠方から空輸や海上輸送で仕入れていた野菜を地場産品に切り替えることで、輸送時のCO2排出を抑制できます。これは地産地消の推進という副次的な効果も期待できます。

建設業

建設会社の場合、鉄骨や生コンクリートなどの建設資材の調達(カテゴリー1)の排出量も大きいですが、最も特徴的なのは、建設した建物の使用段階での排出量(カテゴリー11)が最大の割合を占めることです。

例えば、オフィスビルを建設した場合、その建物が数十年にわたって使用され続ける間の電力使用などによるCO2排出が、建設会社のscope3として計上されます。そのため、省エネ性能の高い建物の設計・建築が重要な課題となっています。

排出量の算定方法と実務のポイント

基本的な算定方法

CO2排出量を計算する際は、「排出係数」という値を使用します。これは、特定の活動がどれだけのCO2を排出するかを示す係数です。環境省が公開している温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度では、以下のような排出係数が定められています。

  • ガソリン:2.29 kg-CO2/L
  • 灯油:2.49 kg-CO2/L
  • A重油:2.71 kg-CO2/L

例えば、社用車で1ヶ月に100リットルのガソリンを使用した場合、 100L × 2.29 kg-CO2/L = 229 kg-CO2 の排出量となります。

出所:算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧(環境省)

scope3の算定における課題と解決策

scope3の算定においては、環境省が提供する「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース」が広く活用されています。このデータベースでは、取引金額ベースでの概算が可能です。

具体的には次の例が挙げられます。

  • 米の調達:100万円あたり6.26トンのCO2排出
  • ビデオ機器:100万円あたり4.72トンのCO2排出
  • 自動車部品:100万円あたり4.72トンのCO2排出

しかし、このデータベースには2つの大きな課題があります。1つは2005年時点のデータベースであり、現在の技術水準を反映していない点です。もう1つは、金額ベースの計算であるため、同じ製品でも取引価格が異なれば排出量も変わってしまう点です。

例えば、地元の田んぼで収穫された米を直接調達する場合、実際の輸送距離は短く、CO2排出量は少ないはずです。しかし、データベースでは一律に金額ベースで計算されるため、このような個別の努力が反映されにくいという課題があります。

先進企業における取り組み事例|加山興業

このような課題に対して、先進的な企業では独自の取り組みを始めています。例えば、産業廃棄物処理業の加山興業では、処理フローごとのCO2排出量を詳細に把握しています。

  • プラスチック類の処理:1トンあたり2.6トンのCO2排出
  • 処理プロセスの改善により2.2トンまで削減に成功
  • 削減効果を定量的に顧客に報告可能

この取り組みにより、廃棄物を委託する企業は自社のscope3(カテゴリー5:事業から出る廃棄物)の排出量を正確に把握し、削減効果を定量的に評価できるようになりました。

参考:KAYAMA SUSTAINABILITY REPORT(加山興業)

削減に向けた具体的な取り組み方

まずはscope 1・2から始める

CO2排出量の削減は、直接コントロールできるscope 1・2から着手することをお勧めします。具体的な取り組みとしては以下の通りです。

scope1の削減

  • 工場の設備を省エネタイプに更新
  • 社用車を電気自動車やハイブリッド車へ切り替え
  • ボイラーの燃料を重油から天然ガスへ転換

scope2の削減

  • LED照明への切り替え
  • 空調設備の適正管理と更新
  • 再生可能エネルギー由来の電力への切り替え

scope3削減のための協働アプローチ

scope3の削減には、サプライヤーや顧客との協力が不可欠です。先進企業では以下のような取り組みが見られます。

サプライヤーとの協働

  • 取引先への排出量算定支援
  • 共同での削減目標設定
  • 環境配慮型の調達基準の設定

例えば、ある小売チェーンでは、物流センターの効率化と配送ルートの最適化により、取引先の輸送時CO2排出量を15%削減することに成功しています。

顧客との協働

建設会社の事例では、省エネ性能の高い建物の提案により、建物使用時のCO2排出量(カテゴリー11)の削減を実現しています。具体的な取り組みとしては以下の通りです。

  • 太陽光パネルの設置
  • 高効率な空調システムの導入
  • 再生可能エネルギーを活用できる設備の整備

データの見える化と活用

CO2排出量の削減を効果的に進めるためには、データの見える化が重要です。

  • 月次での排出量モニタリング
  • 部門別・拠点別の排出量把握
  • 削減効果の定量的評価

これらのデータを経営判断に活用することで、より効果的な削減施策の立案が可能になります。

今後の展望とアクションプラン

企業を取り巻く環境は急速に変化しています。特に以下の点に注目が必要です。

サプライチェーン全体での排出量管理

大手企業を中心に、取引先にscope 1・2・3の排出量データの提供を求める動きが加速しています。これは中小企業にとっても、取引継続のための重要な要件となりつつあります。準備を始めることで、むしろビジネスチャンスにつながる可能性があります。

より正確な排出量把握への要求

現在は産業連関表ベースの概算値が広く使用されていますが、将来的には、より正確な排出量データの把握が求められるでしょう。先進的な企業では、すでに独自の算定方法の開発に着手しています。

明日から始められる具体的なステップ

Step1:現状把握(1-3ヶ月)

まずはscope 1・2の排出量を把握することから始めましょう。

  • 電気使用量の集計(請求書から集計可能)
  • ガソリン、ガス、重油など燃料使用量の確認
  • 排出係数を用いたCO2排出量の計算

Step2:情報開示の準備(2-3ヶ月)

  • 算定結果のレポート作成
  • 社内での共有と課題の特定
  • ウェブサイトでの情報開示の検討

Step3:削減に向けた行動(半年-1年)

  • 省エネ機器への更新計画策定
  • 再生可能エネルギーの導入検討
  • 社員への啓発活動の実施

これからの企業に求められること

CO2排出量の把握と削減は、もはや環境対策の文脈だけでなく、企業の持続可能性を左右する重要な経営課題となっています。しかし、これは単なる負担ではありません。

例えば、CO2排出量の削減は往々にしてエネルギーコストの削減にもつながります。また、環境配慮型の商品・サービスへの需要が高まる中、自社の取り組みを適切に開示することで、新たな事業機会の創出にもつながります。

おわりに

scope 1・2・3の考え方は、一見複雑に見えるかもしれません。しかし、これは企業活動が環境に与える影響を包括的に把握し、改善していくための重要なフレームワークです。

できることから一歩ずつ、着実に取り組みを進めていくことが大切です。その積み重ねが、持続可能な企業活動の実現につながっていくのです。

本記事が、皆様の取り組みの一助となれば幸いです。