Member Storyインタビュー
【創業秘話】デジタルグリッドはなぜ生まれ、どこへ向かうのか
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※本インタビューは2023/12/7に行ったものです。
二人の出会い「電力に、インターネットのような革命が来る」
Q:まずは、お二人の出会いについて教えてください。
豊田
出会いは、大学3年生の研究室訪問でした。東京大学の本郷キャンパスにある、少し古い建物でのことです。正直に言うと、そのとき先生が話していた内容の細かい部分は、ほとんど覚えていません(笑)。
ただ、一つだけ強烈に覚えている言葉がありました。
「電力に、インターネットのような革命が来る」という言葉です。
そのときの先生の目がすごく輝いていて、「この人は本気で何かを変えようとしている」と感じました。
阿部
当時は、電力を研究テーマにする学生は本当に少なかった。だから、研究室に来てくれるかどうかも分からない中で、とにかく自分が考えていることを思い切り語ってた。
豊田
電力は、それまでの自分の人生ではほとんど縁のない分野でした。でも「よく分からないけど、面白そうだ」という直感があって、結果的にその研究室を選びました。
阿部
その選択が、今こうして会社をやることにつながるとは、当時は想像もしていなかったね。
日本全体の電力を“モデル化”する
Q:研究室では、どのような研究をしていたのでしょうか。
豊田
僕の修士研究は、日本中の発電所のデータをすべてインプットして、需要カーブや発電制約を加えたときに、電力市場価格(JEPX)がどう動くかをシミュレーションするものでした。
阿部
石炭、ガス、石油といった発電所ごとの燃料費や効率特性を数式で表して、「どの順番で、どの発電所を動かすのが一番経済的か」を計算する研究だね。
豊田
工学の研究でありながら、かなり経済の要素が強かったと思います。電力は、エネルギーであると同時に、マーケットで取引される商品でもあるので。
阿部
電力の世界は、工学と経済が切り離せない。そこを同時に理解しないと、本質にはたどり着けないんだ。
豊田
JEPX(日本卸電力取引所)や発電会社にも、先生に連れて行ってもらいました。研究室の中だけで完結する研究ではなく、社会と直接つながっている分野なんだという実感がありました。
阿部
研究は、社会につながっていなければ意味がないと思っているからね。
デジタルグリッドという研究を始めた背景・理由「巨艦主義への違和感と、分散型への確信」
Q:そこから、なぜ「デジタルグリッド」という研究に行き着いたのでしょうか。
阿部
僕は長く大手発電会社で働いてきて、100万kW級の大規模発電所を扱う、いわば“巨艦主義”の世界にいた。
豊田
巨大な発電所をつくって、巨大な送電網で電気を送る、というモデルですね。
阿部
そう。そのやり方が最適だった時代は確かにあった。でも、再生可能エネルギーが増え、技術が進化する中で、「この形が永遠に続くのか?」という疑問が拭えなかった。戦時中に戦艦中心の時代から、航空機中心の時代に変わったように電力も同じで、巨大なもの一つに頼るより、小さな電源をたくさん組み合わせた方が、柔軟で強いシステムになる。
ただし、電力には大きな問題がある。勝手に流れてしまうから、インターネットのように「制御」できない。
豊田
そこで「ルーター」という発想が出てきた。
阿部
インバーター制御を使えば、電力を一度直流にして、自由に制御できる。「電力を自在に行き先指定できる仕組み」があれば、電力の使い方そのものが変わると思った。
特許を考える過程で、いろんな人たちと何度も議論を重ねた。その中で、「デジタルで制御された電力網なら、デジタルグリッドでいいんじゃないか」と言われてね。
豊田の入社のいきさつ「学生時代の縁が、事業として再びつながる」
Q:そこから、お二人が一緒に会社をやることになった経緯を教えてください。
豊田
当時、僕は投資ファンドで働いていました。企業に出資して、事業づくりを支援する仕事です。でも、心のどこかでずっと「自分の事業をやりたい」という思いがありました。どこまで行っても、他人の会社を支援している感覚があった。そんなタイミングで先生と久しぶりに会って、デジタルグリッドの構想を聞いたんです。
阿部
僕はただ「こういうことをやろうと思っている」という話をしただけで終わったつもりだったんだけど
豊田
でも学生時代から「いつか先生と一緒にやりたい」という気持ちがあったので、あまり迷いはなかったです。その日には、会社を辞める決断をしていました。
【今後の展望】電力を「自在に扱えるインフラ」へ
Q:最後に、これからのデジタルグリッドについて聞かせてください。
阿部
最終的にやりたいのは、電力を完全にデジタルで制御できる世界をつくることです。インバーター制御によって、事故電流が流れず、火災や感電のリスクが極限まで下がる。そんな電力インフラは、もはや理論上の話ではなく、現実的な技術になってきている。
豊田
電力って、これまで「扱いづらいインフラ」だったと思うんです。一度つくったら、あとは自然に流れるものとして扱われてきた。でも、もしそれをソフトウェアのように制御できるようになったら、電力は「自在に設計できるインフラ」に変わる。
阿部
天候、需要、価格、設備状況。すべての情報をリアルタイムで取り込み、最適な電力の流れを自動でつくる。それがデジタルグリッドの目指す世界だね。
豊田
そのためには、ソフトウェアだけでも、ハードウェアだけでも足りない。両方を理解し、つなぐ存在が必要です。
阿部
デジタルグリッドは、電力、IT、ハードウェア、そして社会制度まで含めた「境界領域」を扱う会社だと思っている。
豊田
完成された答えがあるわけではありません。むしろ、問いを立て続ける会社です。
阿部
だからこそ、この会社はこれからも形を変え続ける。電力を自在に扱える世界が実現するまで、挑戦は終わらない。



